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45-1 やりたくてやったんだ

 身体を横向きにして、涼弥と向き合う。  動かすと腿はちょっと痛いけど、腰はとりあえず平気そうだ。 「小6から俺が好きって……何でわかった? 自覚したきっかけってあるのか?」  涼弥が考えるふうな顔をしたのは、ほんの数秒。 「用あって部屋行ったら 、兄貴が女とキスしてた」  自分の記憶にないそのシーンは、思い出せないけど想像は出来る。 「それ見て動けなくてよ。気づかれるまで」 「まぁ……あり得る状況か。ハル兄、高校生だったろ」 「勃っちまった」  う……まぁ、あり得るよな。  小6には刺激的だし、十分エロかったはず。 「あとで、聞かれた。『俺が彼女としてたこと、したい子いるか?』」  涼弥が俺をじっと見つめる。 「お前だった。頭に浮かんだのと……それでまた勃ったのが、だ」 「そう……か」 「エロい意味で好きだってわかったのはその時だが、もっと前から好きだったぞ。お前といるのが一番楽しかったからな」 「うん。俺も」 「お前の前でだけ、みっともない自分でもかまわなかった」  瞳で問うと。 「小3だったか。俺、親父とケンカして家出みたいな真似しただろ」  話し出したのは、共通の思い出で……俺もはっきり覚えてる。 「隣の学校近くの公園まで、俺もついてって……夜見つかって怒られたっけな」 「暗くなっても、お前は帰らなかった」 「ひとりで帰れないだろ。お前残して」 「あの時も同じこと言った。もう家には帰らねぇ、ひとりでここに住むっつったらよ。俺も一緒に住むって……覚えちゃいねぇか」 「覚えてる。ガキだったけど、けっこう本気で。お前は家出してきてるのに、不謹慎だよな」  そうだ……涼弥が家に帰るまで、俺も帰らない。家より学校より、涼弥が大事だって……。 「家族になって俺が守る。泣いてる俺にそう言ったんだ」  涼弥の瞳を見つめる。  過去のシーンをそこに呼び覚ますみたいに。 「あの時お前……悔しくて泣いてたじゃん? 暗いの怖くて泣いてるとかなら、ほかのこと言ったかもしれないけど……」  ああ……そっか。 「何があっても、俺はお前の味方だって思ったからさ」 「嬉しかった。あれから……泣くの見られて慰められるのも、お前にならいい。守られるのもな」  あの頃から、俺は涼弥を守りたかったんだ。 「もちろん、お前は俺が守るぞ」 「うん」 「お前は?」  上がってた涼弥の口角が下がった。 「俺をってわかったのは、あの……寮で襲われた時か」  心配そうな表情に変わった涼弥に、作り物じゃない笑みを見せる。  強がりじゃなく。  もうほんとに。先輩とのことは、思い出す必要ない過去の出来事だ。 「ん……そうだな。俺、恋愛に疎かったからさ。ハッキリ気づいたのは、もっとあと……っていうか、最近だ」 「何かあったか?」  こっからは、あの話に続く。 「涼弥。先に、身体流そう」  起き上がる……のは、平気。で、立ち上がるのは……。 「いッ……つ……」  平気……腰はダルいけど、全体がガツーンってくるあの痛みはない。  痛かったのは脚のつけ根で。これは動けばなくなる類のもの……のはず。 「大丈夫。水分補給もしとかなきゃな」  先に言って、ベッドから降りる。 「將悟(そうご)……」 「サッパリしてから話そう。落ち着いてさ」  何の話かわかった涼弥が、頷いて起き上がった。神妙な顔つきで、俺をジロジロ……。 「不安か?」 「ああ」  う……肯定されると、拭えたと思った不安が……。 「お前、ほんとに大丈夫か……」  ここは元気に、笑ってイエスだ。 「腰」 「え?」 「痛めてないか?」 「う……ん。今日はまだ平気、だけど……」 「そうか」  涼弥の顔がパッと明るくなる……って。 「不安て、俺の腰が?」 「そうだ。痛けりゃ今日はもう、やれないだろ」  その通り。  で、気が抜けた。  何だよ。  そこかよ。  話すのが不安かと思ったじゃん!?  重い空気になるのかって……。  違くてよかった。うん。マジで。 「休憩して、今度こそゆっくりな」  大きく息を吐いて、笑いかけた。  どうせ、もう一回浴びることになるから……ってのが頭にあるせいか。  乾いてガビったローションと精液を簡単に洗い流して、シャワーは終了。  相変わらず、半勃ち以下にはならない涼弥のペニスは。本人が気にするなっつーから、気にしないように努めることにして。  ベトベトのなくなった身体で、再び涼弥の部屋へ。  パンツとTシャツだけ着てベッドの縁に座る。ベッドの真ん中らへんは、俺たちと違ってまだベタついたところがあるけど……今はまぁ、これは気にしない。 「俺から話すか?」  そう聞くと、涼弥が首を横に振った。 「いや……先に話させてくれ」 「ん。じゃあ、聞く」  ひと呼吸置いて、涼弥が話し始める。 「悠がゲイってのを、仲間内じゃ誰も気づかなかった。中学から一緒のヤツらも」 「お前も? 同じ中学だろ」 「ああ。噂ひとつ聞かなかった。言われりゃそうかって思えるが、今の高校以外に……ゲイがいるとは思わなかったしな」 「まぁ、いても少ないか」 「……春休みになってすぐの夜、仲間と解散したあと……悠を見かけて追った。あいつ、その日来なかったのに街にいて……」  当時を思い出すように話す涼弥の眉の間に、微かな皺が寄る。 「裏通りの店からスーツ着た男2人と出てきて、なんか言い合ってるからよ。なんかトラブルでも起こしたんじゃねぇかって」 「声かけたのか?」 「ああ。奥の通りに向かうの見てな」  裏通りの奥にあるのは、数件のホテルだ。 「そいつどこ連れてく気だって聞いて、ヤツら……悠とやりに行くっつーから……ちょっと力づくで追っ払ったんだが……」  眉間の皺を深めて、溜息をつく涼弥。 「何で邪魔すんだって、悠に怒鳴られた」 「え?」 「どっちかの男とやるつもりだったのに、責任取れよ……って。からかってんのかと思ったら……マジで……」 「……悠の知り合いだったのか? それとも……」 「ナンパだ。相手は誰でもよかったらしい」 「どうして……?」 「詳しく聞いちゃいねぇが、フラレてヤケんなってっつーか。今誰かとやらねぇと、もっとバカな真似しそうなくらいヤバいのが……自分でわかるからってよ」  合わせた目を、涼弥は逸らさない。 「俺の相手出来ないなら放っといてくれ……って言われた」  放っておけなかった、のか。 「で……お前が一緒にホテルに?」 「そうだ」 「相手する気で?」 「ああ……そうだ。お前のこと、ずっと頭にあった。お前を好きなのに……」 「謝るなよ? 悪いことしてないだろ。その時は、つき合ってるも何もないんだからさ」 「俺もそう思ってた……ってより、あの時は……お前が襲われてんの見た次の日だったからよ。どうにかしなけりゃって思って……」  涼弥が言葉を止めた。 「どうにか……って?」 「……このままじゃ、お前の前で普通でいられる自信がない。ほかに目向けたほうがいい。お前が好きなんだから……俺は男がいいのか。ほかの男でも、その気になるのか」  一気にそう言って、俺との間の空を見つめる涼弥。 「一晩つき合ってくれって悠に言われて、ちょうどいいって思っちまった。男を抱いてみたい。ナンパ男でも俺でも誰でもいいっていうなら、俺がどんなつもりでやろうがかまわねぇだろ……ってな」  口元だけに笑みを浮かべた涼弥が、ブレない瞳を俺に向け直す。 「悠を放っておけなかったのもあるが、嫌々じゃねぇ。俺が、やりたくてやったんだ」

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