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45-2 俺が抱いたのは

 暫しの間を、涼弥はどう感じたのか。 「これが、悠とやった理由だ」  先に口を開いた涼弥は、ひどく気マズそう。 「うん……」  俺はというと。  ひと言でいえば……安心した。  今の話を聞いて、気分は全く害されてない。むしろ、楽になった。  俺が、やりたくてやったんだ。  それは、俺と同じ……俺の場合、俺が誘う側だったけど。  だからか。  誰でもいいからセックスしないとヤバいっていう、悠の切羽詰まった心情はわからない。  でも、ナンパ男の代わりに涼弥を誘った悠に、ムカつかない。  自分の意志でそれにのった涼弥にも、ムカつかない。  そして。   悲しくもない。  だってさ。  やったことで、二人とも傷ついてないから。  二人とも、やりたくてやった……それなら、いいじゃん。  よかった。  そう思えて、よかった。  ただ。まぁ……ほんのり嫉妬心はあるけどね。 「で、うまくやれたんだよな? 楽しんだか?」  1ミリの嫌味も他意もなく尋ねる俺を、涼弥が窺う表情で見る。 「ああ……楽しいっていうのか……気は済んだ」 「男相手に勃ったからか?」 「それもあるが……」 「気持ちよかったから? 一晩中やったのか?」 「そりゃ気持ちはよかったが、朝方にはもう限界で寝ちまった」  限界までやった……のか。  すげーな。悠が。 「そんなことじゃねぇ」  あーもう! て感じで、涼弥が首を振る。 「あいつとやって、わかったからよ」 「何……」 「ほしいのはお前だ。ほかのヤツ抱いても、満足出来ねぇ。お前と友達のまま、お前のこと想像して抜けばいい。俺は……そうしようってな」  涼弥……。 「やってる最中は、夢中になった。そのあとずっと、どっか罪悪感みたいなのが消えなかったが……今全部しゃべったらスッキリした感じだ」  夢中にってのは、ちょいムカッと…メラッとする。  自分も、(かい)とのセックスに夢中になったくせに。  理論的じゃないよね。  感情ってそういうもんだけど、嫉妬は特にな。 「そっか……」 「後悔はしてない」 「ん。ならいい」  本心で頷いて微笑んだ。 「気分悪くなんねぇのか?」 「ならない。聞いてよかった……あ。実は前に……悠に少しだけ聞いてた」  涼弥が顔をしかめる。 「あいつ、何言った? あの電話の時か?」 「うん。涼弥が俺を好きとかはない。俺を抱いたのは友情と同情と好奇心。自暴自棄になったの止めるのに、気が済むまで一晩中つき合ってくれた……」  悠の言葉を思い出す。 「100パーセント友達として、お前が好きだって。俺と、ずっと仲良くしてほしいって……いいヤツじゃん。前にも言ったけどさ。だから、放っとけなかったんだろ」 「そうだな」  沈黙。  次は俺が話す番だ。 「最初に、さっきの続きから話す」  涼弥の視線にトゲはない。責める色もない……今は。 「お前を好きだって、ハッキリ自覚したのは……女子部にお前も来て、会った日。あのあと、深音(みお)とセックスした」 「……そうだったな」 「する前、深音に言われたんだ。好きなんでしょって……お前のこと」  涼弥がちょっと目を瞠る。 「俺がお前を好きだって気づいてた。俺より先に。凱と沙羅も。凱と沙羅は……お前が俺のこと好きだっていうのもな」 「沙羅はともかく……凱?」 「転校初日に、あの女子部でのやり取りで気づいた。で……次の日に、お前とのこと相談したんだ。それも話すけど……」  眉を寄せる涼弥に。順を追って話すべく、息をついて気持ちを落ち着ける。 「深音とやって……イク時、お前を呼んだ……心の中で」  再び、涼弥が目を見開いた。 「だから、もう気づかないフリなんか出来なくなった。ほしいのはお前だって認めたんだ」 「將悟(そうご)……」  俺を呼ぶも何も言わない涼弥に、話を続ける。 「中学の頃から俺、自分が男にも女にも欲情しなくて。最近までずっと……自分がノンケかゲイかバイかわからくて悩んでた。深音と偽装でつき合ったのも、まずは、女と出来るか確かめようと思ってさ」 「出来た……んだよな」 「うん。一応は。でも、興奮するって感じじゃなくて。実際、半年つき合って……あの日で2回だけだったし」  ペットボトルに手を伸ばして、ぬるくなったスポーツ飲料をゴクゴクと飲んだ。 「次の日、凱とうちで話したんだけど……」 「家で!? 会ったばっかりのヤツ、襲われたらどうするつもりだ!? 何でそんなにガードが甘いんだお前は……」 「わかってるけど、凱は……信用出来たから」  苛立った声で放たれる涼弥の文句を、ためらいがちに制す。 「でも、これからはもっと気をつけるよ。約束する」  一呼吸の間を置いて、涼弥が頷いた。 「凱と話す日の朝、樹生が言ってたんだ。俺は絶対に男は無理、試してみたけど鳥肌悪寒で勃たなかった……って。それ聞いて、不安になった」  涼弥と視線を合わせる。 「沙羅に、お前も俺が好きなんじゃないかって言われてから俺……いろいろ考えて。もし、お前と恋人同士になれたら、その先も……」 「考えたのか? 俺とやるかもしれねぇって」 「ん……だから、すごく不安でさ。好きでも、身体が拒否すれば……ダメだろ。そういうのはもう、どうしようもないじゃん?」 「必要なら出来ると思うが……」 「まぁそうかもしれないけど、想像してゾッとした。お前といざやろうとして、鳥肌立って勃たなくて……お前を傷つけるとこ。そのあと、友達でもいられなくなるって」  想像したのか。  涼弥が悲しげな顔をした。 「なくしたくなくて。恋人になれなくても、せめて友達ではいたくて。だから、男も平気だってわかるまで、お前に気持ちバレないようにしようって」 「全然バレなかったぞ。これっぽっちもだ」  薄く笑った。 「それで、試すことにした」  まっすぐに、涼弥の瞳を見つめる。 「自分が男と出来るか、知りたくて試したんだ。お前が好きだからって理由だけど、自分のためだ。俺が、不安をなくしたかったから」  相手は? 「俺が頼んで、凱に相手してもらった」  聞かれる前にそう言った。 「俺が抱いたのは、凱だ」

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