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47-2 楽になった

「はーっ!」  声を上げて。ベッドに腰を下ろして身体を倒す。 「焦った。お前いないタイミングで弥生さん来て」 「悪かった」 「悪くない。ただ、焦った。ゴム見られてごまかせないし……」  言っていいかな? 「勘違いされた。お前に……強姦されたんじゃないかって」  少なからず驚きを見せたあと、涼弥が溜息まじりに笑った。 「なんだ。気づかれてたんだな」 「何?」 「弥生さんに。俺の気持ち」 「いや、そこじゃないだろ。いくら好きでも、お前がレイプしたかもって思うの……ひどいじゃん?」 「そりゃ仕方ねぇ。ここ見てお前見て、俺が風呂場だ」 「普通に。つき合っててやった、そう考えないのか?」 「ない。俺が気づかねぇのに、お前が俺をって……思ってもみなかったはずだ。お前に彼女出来たって言ったことあるしな」 「そうか……なら、うん」 「バレたくなかったか?」  仰向けに寝そべる俺に、涼弥が屈み込む。 「弥生さんと実花に」 「いや。認めてもらえて嬉しいよ。セックスした直後にってのが……気マズかっただけ」 「親父にも言っておく」 「え……」 「自分で言いたいか?」  まさか……! 「違う、けど。お前の親父さんのリアクション……読めなくて不安。反対して怒ってお前殴ったり……するかもしれないだろ」 「しない。反対したって、俺が聞かないってわかってるからな」 「でもさ。カッとなって……」 「何で親父が怒るんだ? お前狙ってるなんてあり得ねぇぞ」 「そうだけど!」 「親父は、理不尽なことで殴らない。大丈夫だ。それに、俺が言わなくても弥生さんが言うから同じだ」 「うん。わかった」  知られるなら。家族みんな、いっぺんにでいいか。  隠す必要ないんだから……って思ってるけど。  相手の父親ってプレッシャーだよね。  涼弥が父さんのこと気にしてた気持ち、こんなだったのか。  大丈夫、なんて軽く言ってた俺……想像力が足りなかったな。  大きく息を吐いた俺に、涼弥がキスしてきた。 「ん……今は、マズい……だろ……」 「ちょっとだけだ……」  マズいって言いつつ。  開いた唇から入り込んだ涼弥の舌を、喜んで受け入れる俺。 「っは……ん……っ……ふ……」  口内を舐められるのも舐めるのも、吸い合う舌も唾液も。  心地よくて。  安心して。  好きで。  幸せだ。  唇を離して上げた涼弥の瞳に、熱がこもってる。 「ダメだ。帰れなくなる」  腹筋……には力入らず。身体をずらして起き上がった。  涼弥も身体を起こし、俺をじっと見て唇の端を上げる。 「やりたくなったか? お前も」 「……なるだろ。エロいキスすれば」 「今日のあれじゃ足りないか?」 「足りた。つーか……あんなよくされたからじゃん! まだ身体ん中残ってる気がする……のにさ」 「怖いな」 「何が」 「夢みたいな現実が……慣れねぇ」  ベッドから降りて、涼弥の頭を撫でる。 「お前の髪短いの、半日ずっと見てて慣れた。だから、そのうち慣れる」 「お前とつき合ってることにか?」 「あと、お前が俺をほしい時は、俺もお前がほしいんだってこともだ」  涼弥が、俺の手を掴んで立ち上がる。 「慣れちまうのか……」 「嫌か?」 「ああ。これに慣れちまったら、今より贅沢になるだろ。歯止めが効かねぇぞ」 「いいじゃん。底も天井もなしで……贅沢しよう」  俺たちは笑った。  程なくして。  平気だっていうのに、また。涼弥が俺を送ってくれてる。  チャリで出たけど、漕ぐのはもちろん……後ろに乗るのも厳しい俺。  腰が少し痛いのに加え。  切れてはなくても、セックスで酷使したばかりのアナルが……ヒリヒリして通常時より痛みに敏感になってるから。  結局、持ってきたヴァセリンを、今日も自分で塗った。  ふてる涼弥に、また今度って言って……思った。  『また今度』することが、増えてく。  今度があるって、幸せだよな……しみじみ。 「実花ちゃんにさ。会ってすぐ、お兄ちゃんとつき合ってるのって聞かれたよ。弥生さんみたいに、ゴム見たわけでもないのに」  チャリを引く涼弥とのんびり歩きながら、思い出した。 「お前見てて気づいたのか……鋭いな」 「ああ、そりゃ、人から聞いたらしい」 「人? 誰?」 「先週、南海の件のあと……ここらへんでキスしただろ」  ちょうど、馴染みの公園が見えてきたところだ。 「通りかかってそれ見たチャリの女。実花の友達の姉貴なんだ」 「え……?」 「どっかで見覚えあると思ったが、あの時は……いっぱいいっぱいでよ」 「そう……なんだ」 「さっきシャワーのあと、実花のヤツ……なんか目ランランで待ちかまえてて、こうだぞ」  涼弥が僅かに眉を寄せる。 「『お兄ちゃんが男と道端でキスしてたって聞いて、ウソ!って思ってたけど。やっぱ將悟(そうご)くんだったんだ。髪切ってるし。どうやってゲットしたの? 脅し? 泣き落とし?』」  実花ちゃん。兄の恋の成就……喜んでくれてるよね? 「からかったんだよ。夜逃げがどうのってのもな」 「……実花に男出来た時は、俺がからかってやる」 「仕返しするな。大事な妹だろ」 「まぁ、そうだが……」 「実花ちゃんと弥生さんに……俺たちのこと知られてよかった。もっとソフトにバレたかったっていうか、自分から言えてればとは思うけどさ」  最中目撃じゃなくて、マジでよかった。 「学校でもだけど、お前の家族に内緒じゃないって……気が楽になったな」  何に引っかかったのか。  涼弥が、微妙な表情で俺を見つめる。 「將悟」 「ん?」 「気が楽っていや……(かい)のことだが……」 「……責めるなら、俺にしろ。かばうとかじゃなく、あいつは悪くない……」 「それは、わかってる。そうじゃねぇ……」  涼弥の声に、乾いた笑いが混じる。 「聞いた時は、思わず手が出ちまうくらいムカついた。お前がほかの男とって……想像するとブチキレたくなるけどよ」 「ん……ごめん」 「凱もお前も悪くないだろ」 「う……ん」 「ずいぶん前に、自分はやってんだ。そう考えると……かなり気が楽だ。お前もってのが」  見つめ合う。  そうだ……。  凱に言ったじゃん俺。  セックスしたい理由。不安のほかに。  涼弥が男と経験あるなら。それ負い目みたいに感じてるなら、俺も同様になれば……あいつ、楽になるんじゃって……。  今、そうだって聞いて。  俺も楽になった。  もともと。  男が平気か試したい。  それは。  涼弥を拒否しないか、男とのセックスが怖くないかの確認のためだったけど。  平気ってわかっても続けたのは、俺も男を抱く感覚知っときたい。男同士のセックスがどういうもんか知りたいって、エゴからだ。  プラス。  確かにあの時、俺は欲情した。  理由なんかどうでも、セックスしたかったんだ。  やりたくてやった。  好きな相手がいるのに。  ほかの男と。  それが、自分だけじゃなく相手もだと……気持ちが楽だ。  涼弥に言われて、あらためてそう思う。   「今日、全部話して聞いて……やっと楽になった」  涼弥が微笑んだ。 「だから、もうムカつかない。凱に……警戒もしない。お前がヤツを信じてるなら……俺も信じるぞ」 「ん……ありがとな」  俺も微笑んで、空を見る。  秘密もなくなって。  身も心も満たされて。  夜だから。青じゃなく黒に近い色してても、空は晴れていい天気で。    願うなら。  残る憂いは何か……って考える俺。  生徒会選挙で落選すること、だな。

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