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48-3 学祭準備始まり
俺のあと間を置かず小泉が教室に入ってきて、SHRはすぐに始まり。終えて続く1限の前。
「凱 。ごめんな」
隣の席に座る凱に、謝った。
「おととい、涼弥に聞いた。お前、殴ったこと」
凱がやわらかい笑みを俺に向ける。
「ちゃんと話せた?」
「うん。お前に聞いてたおかげで、知ったショックは過ぎてたから……落ちついて説明出来て、わかってもらえた」
「嘘ついててごめんね」
「俺のためだろ。気使わせたな」
「言ったじゃん? 全部込みのオッケー。俺も楽しんだしさー」
「ん……ありがとな」
「涼弥、さっき来たぜ」
「え!?」
「俺んとこ。いろいろごめん、もう大丈夫だって」
涼弥が……。
「そっか……来てたのか」
「頭サッパリして、スッキリした顔して」
「うん。短いの、1年ぶりかな」
「これからも、將悟 の友達でいてくれって言うからさー」
そんな殊勝なことを……!?
大人になったのか。
ちょっと感動。
「將悟だけ?っつったら、俺ともだ……って。俺、やっと信用されたみたいねー」
からかうようでいて、やさしげな凱の瞳を見つめる。
「ん……よかった」
ほんとに。
「凱。お前も頼れよ……俺に」
「うん。サンキュー」
大事な友達だ。
ずっとな。
朝の選挙活動で疲れた心は、ほっこり回復し。前向きな気分で、あらたに今週の始まりだ。
学祭を週末に控え、普段より活気ある月曜は平和に過ぎる。
昼休みに、エスコート役のそれぞれの衣装を決めた。
うちの学園には、学祭用の衣装がふんだんに揃ってて。何を何着使用したいかを申請すれば、だいたいは手に入る。
お化け屋敷のテーマはゾンビだけど、エスコート役のドレスコードはなし。
この格好がしたいってのが特になければ、この4種類の中から選んでと言われたのが。
戦闘服。
ゾンビから客を守る護衛的なガードを演出。
メイド服……つまり女装。
客をもてなす。
ギャルソン服……フレンチレストランのウェイターの服?
客をもてなす。
西洋貴族風。
王子か子爵か男爵か……高級感漂うエスコートを演出。
これ、無難にギャルソン服でいいだろ。
くじ引きとかジャンケンとかでなく、希望したやつでよくて何より。
『お前、メイド服着ろよ。似合うぜ』
岸岡に言われたけど、即ノーだ。
お前が着れば?
実行委員は何着てもいいからさ。そう言い返すも。
『スカートはいた俺が入り口にいたら、ギャグ系お化け屋敷って思われるぞ』
その通りで……着なくていいや。
イロモノで客呼び込むなら、はじめからソレ用で作ったほうがいいし。
せっかくだから、ゾンビで繁盛してほしいもんな。
岸岡の女装、見たいわけじゃ全然ないしね。
そして、放課後。
玲史 と紫道 と3人で、お化け屋敷の仕掛け制作に取り組んだ。
場所は第3多目的教室。普通教室の3倍強の広さ。
ここで、グループごとに担当の仕掛けを作る。
期限は木曜いっぱいで、金曜日は最終確認の予備日だ。
うちらの仕掛けは……。
ベッドに寝てる男を、ゾンビが襲う。
首筋に噛みつかれて叫び声を上げる男。
やがて男は起き上がり。
2体になったゾンビは、フラフラと客のもとへ。
単純な、ゾンビ増殖シーンのひとつってやつ。
ヴァンパイアとかぶってるのは遊び心で。
「將悟。週末は杉原とやったの」
長机をベッドに見立てるための布を広げながら、玲史が言った。
「満足したんだ。杉原って、やっぱり攻め好きのバリタチか。ネコにしたかったのにな」
イエスって答える前に……ていうか、疑問形にもせず、やった前提で進んでく玲史。
「やったし、満足もした……けど」
答えるよ?
でもさ。
「俺見てわかるのか?」
「だって。將悟、雰囲気甘いもん。順調に開発中って感じ」
「……お前くらいだろ。そんな目ざといの」
「かもね。自分が欲求不満だから、人のそういうのに敏感になってるみたい」
玲史の視線が紫道へ。
この二人、ギスギスした感じはない……けども。
「え……と。なんかあったのか?」
沈黙が続かないよう、尋ねると。
「特にない」
「ないのが問題」
同時に答えが。
紫道が溜息をつく。
「昨日、うちで法事があったんだ」
「うん……?」
「だから、週末に玲史と……やるのはやめておいた。体調不良で出席出来なくなるわけにはいかなくてな」
あー……。
腰痛いとか、尻痛いとか……あり得るもんね。
相手が玲史なら、リスク高そうだ。
「学祭後ってことにした」
「で、不機嫌なのか」
バフっと。布をかけた長机を、玲史が叩いた。
「あたりまえでしょ? 金曜日に、委員決定したのに。賭けに勝ったのに。約束したのに。何でお預け食わなきゃなんないの?」
「いや、そうだけどさ。紫道だって家の都合で仕方ないっていうか……」
「夜は空いてたし。朝には帰すし」
宥めにかかる俺を遮って。
さらに、口を開く前に。
「もちろん、ちゃんとまっすぐ立って歩ける状態で」
反論の余地をなくす玲史。
信用出来るかは別として。
「悪かった。委員決定は学祭の日だと思ってたからな」
「もういいよ。その代わり。土曜日は覚悟して……るんだよね?」
「ああ。学祭の夜から次の日は、そのために空けてある」
紫道の言葉に、玲史が途端に笑顔になる。
「僕の望み通りにしてくれる?」
「……言ったろ。聞ける要求と聞けない要求がある。聞いてからでなけりゃ、うんとは言えない」
ちゃんと考えてるんだな、紫道。
玲史相手に安請け合いは……怖いよね。
「じゃあ……そうだなー」
ベッドと服に使う血糊用の絵の具チューブを玩びながら、玲史が俺をチラ見する。
何で俺見るの……?
なんかいい案でも浮かぶのか……?
「どっちかはオッケーして。將悟に意見聞いてもいいから」
「何だ?」
「縛っていいか、オモチャ使っていいか」
顔を見合わせる紫道と俺。
瞳で伝えたのは。
どっちも嫌だって言えよ……!?
だけども。
「將悟なら、どっちが嫌だ?」
選ぶ気らしい紫道に聞かれる。
どっちがいい?って聞かないあたり、どっちもいいわけじゃないんだろうに……ノーはなしか?
お預けしてるからか?
玲史が好きだからか?
何にしても。
友達のために考えてみる……俺だったら?
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