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48-4 泊まりはアリ、かな?

 手足の自由が効かないのは、怖い……カンベンだ。  まだ……自信がない。  縛られて、手がしびれるあの感覚。  同じ状況で、勝手に身体が反応する。  レイプ未遂の恐怖に。  俺の頭も心も、もうやられない。  しびれるのは、たたの条件反射だ。そのうち消えるはず。  いや。  心のどっかに、まだ……残ってるのか。  あんなことくらいでトラウマになってるのか。  弱いな俺。  強く、なりたい。 「俺は縛られるほうが嫌……それは無理」 「そうか」  頷いた紫道は、思案顔。 「へぇ。ちょっと意外だね。オモチャはいいんだ。將悟(そうご)って、けっこう淫らになりそう」 「よくない。オモチャも嫌だ。どっちのほうが、より嫌かってこと」  捕食者の瞳で玲史に見つめられ。  居心地が悪い……ほんとに飢えてるっぽくて。 「道具は使うな」  答えた紫道に、玲史が視線を移す。 「縛っていいの?」 「俺は逃げないが……どうしてもそうしたいなら、その日だけだ」 「え……」  待って? いいのか? サドの前で無抵抗の餌食よ!? 「將悟が証人ね。ふふ……楽しみ」 「待たせるからには、1日くらい好きにさせてやろうと思ってな」  俺に微笑む紫道は。  決して諦めたふうでなく、なんていうか……切なげだ。  そうか。  賭けだ何だ言っても、つき合うことにした二人。  俺の知らない思いってのがあるんだろう。 「ん。じゃあ、その……楽しんで。でも、無理するなよ」 「ああ」 「ねぇ! 將悟たちはどうする予定? 学祭の夜は泊りで熱い夜?」 「あ……まだ決めてないけど……」  泊まりか……それもアリ、かな? 「お祝いすれば?」 「何の?」 「選挙結果、出るでしょ。あーお祝いじゃなくて……慰めてもらえば?」  玲史は楽しそうな瞳で。  紫道は、少し気の毒そうな瞳で俺を見てる。 「俺が……役員になったら……か?」 「何ちっちゃいこと言ってるの? 生徒会長になったら、だよ」 「は!? 会長!? 嫌だ。それはノーだって……」 「拒否権はないんじゃない? だから。夜は杉原に……ね?」  う……。  役員になるのも嫌なのに。  万が一、会長になんかなったら……! 「杉原に聞いてる? その時は、紫道が風紀委員長になるから。こっちはお祝い……たっぷりサービスしてあげるね」  完全に機嫌がよくなった玲史の。期待に光る瞳が、俺から紫道へ。  そして、また俺に。 「きっと、杉原もサービスしてくれるよ」 「そう……だな」  サービスはしてもらわなくていい……普通で。  つーか。  セックスするしないじゃなく。  学祭の日は、選挙結果の発表がある。  もちろん。まだ、落選を諦めちゃいない。  いないけどさ。  その夜は……。  涼弥と一緒にいたい。  今度ホテルに泊まろうな……って言ったし。  いろいろあって、学祭はいい区切りだし。  向こう1年間の責務を受け入れることになるなら。慰めてもらうのは、アリだよね。  もしくは、晴れてこのストレスから解放されて……お祝いだ。  どっちにしろ。  涼弥と過ごす時間は、俺にとってご褒美になる。  そのために、選挙活動もがんばれる……気がするしな。 「うん。涼弥に聞いてみるよ」 「オッケーに決まってるでしょ。あ。將悟たちも、うちに泊まる? 部屋余ってるから」 「え? いや。いい……遠慮しとく。紫道と二人で……楽しく、仲良く過ごして」  ちょっと焦り気味で断った。  冗談だとしても、断らねば。 「そお? 邪魔しないし。もしもの時は、協力し合えるし」 「もしもって……?」 「気分がノッて、ギャラリーがほしくなった時とか……」 「ない!」 「ダメだ」  俺と同時に、紫道もノー宣言。 「お前の趣味に、將悟を巻き込むな」 「半分冗談だってば」  半分本気……。  人のセックスを見たいってのは、ギリわかる気がしなくもない。AVと思えれば。  ゲイビ見たことないし、生で友達のは……見ちゃイケナイモノ過ぎて見れないけどさ。  自分のセックス見られたいってのは、本気でわからない! 「お前が言うと、冗談に聞こえない」  紫道が溜息をついた。 「玲史。お前の趣味には俺がつき合う。二人だけなら、だ。それじゃ足りないか?」  見開いた玲史の目が、細くなる。 「足りそう。ヤバ……今すぐここに押し倒したい」 「おい!」  思わず声を上げるも。 「ここでゾンビ役やり終わったら、お前のネコ役になってやる」  すでに二人の世界に入ってる耳には届かず。  長机に布を張ってベッドに見立てる作業は、玲史と紫道に任せ。絵の具と洗濯糊を手に、血糊作りに取りかかった。  学祭準備は、原則午後7時まで。  月曜の今日は、どこもまだ追い込みじゃなく。定時で上がって、涼弥との帰り道。 「今日、なんか……あったか?」  校門を出たところで、涼弥に尋ねる。  なんとなく。  機嫌悪いっぽい気がして。  心当たりは特にない……よね?  油断して誰かに何かされたり騙されたり、してないし?  まさか、朝の……3年にかまわれてたやつ? 坂口に頭撫でられたから?  いやいや。  そんなんで、今も不機嫌とかないだろ。  俺たちはハッピーな恋人同士。  信じ合ってるし。  わかり合ってるし。  ただ、少し……涼弥が心配性なだけだ。  ひとりで脳内議論しつつ、待ってると。 「学祭の、風紀の見回り当番……」  涼弥が口を開いた。 「11時から12時半になった」 「あれ? お前んとこのメンズカフェ。3交代で、9時半から12時だったよな?」 「ああ」 「風紀の見回りがかぶった分は、免除される。だから、シフトに合わせてくれるって……」 「そうだ」 「じゃあ、ちょうどいいじゃん。俺、1時までだし」  シフトは、二人とも前半になるようにした。  せっかくだから、空き時間一緒に回ろうってことで。 「お前のシフト中、1時間はそっち見るつもりだった」 「客でか? 30分あれば余裕だろ」 「見回り終わって報告してりゃ、10分15分時間食っちまう」  悔しげな涼弥に。 「うちのお化け屋敷見たいなら、午後一緒に入ろう。俺は女のエスコート役だから……シフトの時来ても、一緒に見れないしさ」 「……客でじゃねぇ。少しでも、変なヤツ来ないか……見張ろうと思ってよ」  涼弥と目を合わせる。  見張り。  客が心配。  やっぱりまだ、心配し過ぎな傾向が……。 「大丈夫だ。もし。変なの来ても、人の目十分あるから。風紀の見回り、安心してしっかりやれよ」 「そうするしかないが……」 「そのせいで不機嫌なのか?」 「……いや」  涼弥が深い息を吐く。 「機嫌が悪いわけじゃない……憂鬱なだけだ。お前の、選挙の……」 「朝の出迎えか? 候補者に声かけてくるのは、軽いノリでさ。お約束の。からかい半分で本気じゃないヤツらだろ」 「わかってる。坂口のも、気にしてない」 「じゃあ、何が……?」 「……役員選挙」  重苦しい感じで、眉を寄せる涼弥。 「欲目なしで見ても、お前……当選するぞ」

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