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48-5 禁欲!?

 生徒会役員にはなりたくない。  だけど。 『 嫌々でも何でも。候補者になることを受け入れたのは、きみたち自身だ』  今朝、江藤が言った通り。  選ばれても役員の責任負えないなら……ハナから候補者になるなって話だ。  仕方ないっていう前に。  頼みまくってほかの候補者立てるとか。  自分にやる気はないから、クラス全員でくじ引いて決めるよう提案するとか。  出来ること全て、やるべきだった。  だから。  当選しちゃったら……やるしかない。  それは、わかってる。  プラス。 『お前が役員になってもならなくても俺がいる』  そう言ってくれる涼弥が、俺の隣にいて……俺を見てる。  今も。  いつも。  これからも。  だから、大丈夫だ。  何も変わらない。 「当選しちゃったら、マジメにやるよ。役員」 「腹くくったのか」 「お前も風紀にいてくれるしさ。ていうか……」  涼弥に笑いかける。 「お前がいれば、俺は大丈夫……だろ?」  眉間の皺が取れた涼弥の顔に、笑みが浮かぶ。 「ああ、そうだ」 「憂鬱、晴れたか?」 「ほとんどな」  駅の改札を抜け、学生より仕事帰りの社会人が多くなったホームに到着。 「まだなんかあるのか。憂鬱のモト」 「……たいしたことじゃない」 「何。言えよ」  ほんのり気マズげな表情で、涼弥が口を開く。 「朝の……出迎えんとこで俺たち見てたって1年に……気に入られちまってよ」 「告られたのか?」 「いや。なんか……ファンになったとか何とか……言われて」 「へぇ……」  言いづらそうなのは、だからか。  告られたんじゃないなら。断ったんだろ、とは言えない。  てか。  断るもノーも、やめろってのもおかしい。  ファン……って、何だろう?  実体が曖昧だけど。実害……ないよね?  好ましく思うのを止める術って……ないしな。 「バカ言ってんな、俺は將悟(そうご)しか見ねぇっつったら……だからいいんです、だと。絶対に別れないでくださいって……わけがわからねぇ」  うーん……。  俺もわかんないけども。 「いいじゃん? その子がお前に何かしてくるんじゃなきゃ、俺は気にしない」 「まぁ、何しかけてこようが騙されることはねぇが……てより、お前だ」 「俺……?」 「あいつ……木谷(きたに)ってんだが、お前狙ってるようにしか見えねぇ。俺はフェイクでよ」 「は? 何で? てか、俺たちのこと応援してくれてるんじゃないのか?」 「そういう体で近づいてるっつーか……」 「何でそう思うんだ?」  間が空いて。 「俺と……かぶる。似てるんだ。見た目が同じ……系統とか種類とか、そんなもんが」  少し嫌そうな顔した涼弥を見つめる。 「お前っぽいの?」 「……ちょっとな。だから、ヤツも……お前みたいなのが好きになんじゃねぇかって……」 「どんなんだ?」 「こんなの、だ」  ちょうどホームに停まった電車のドアが開き。人混みの動きに紛れ、涼弥が俺の頬を撫でた。  乗り込んだ車内で、ドアの前に並んで立つ。 「まぁ……その1年がどうでもさ。俺とお前は変わらないだろ。お前が自分からかかわんなきゃいいだけ」 「かかわるしかない」 「え……?」 「木谷も風紀委員で……学祭の見回りが一緒だ」  は……なんか、なんだかな。  ちょっと笑った。 「じゃあ、その時。紹介して。見てみたいし」 「……あんま気がすすまねぇ」  ドアのガラス面越しじゃなく。横向いて、涼弥と目を合わせる。 「お前いるとこで、心配することないじゃん」 「そうだが……」  じっと、続きを待つ。 「高畑が……」  玲史が……? 「木谷が俺と同じタイプなら……將悟の好みかもっていうからよ」 「そ……れ、お前に似た感じのその子を、俺が気に入るんじゃ……って心配なの?」 「ああ……少しな」 「涼弥」  見つめて、微笑んだ。 「逆、考えたか? 俺によく似た男がいたら。お前は、気になったり好きになったりするか?」 「しない。お前もそうだって……わかってんだけどよ。つい、悪いほう考えちまう。阻止する策がありゃ、安心だからか……臆病だな」  自嘲気味に笑う涼弥に。 「自信持て。信用しろ。あと……もういっこ」  玲史からの提案で、俺が望むやつを。 「学祭の日。夜、一緒にいてほしい」  涼弥が目を見開いて。  速度を落とした電車が停まった。  駅を出て。  まばらに人が歩いてる帰り道。 「お前とホテルに泊まりたい」  お願いを、もう一度言う。周りに人がいないから、ハッキリと。 「選挙のお祝いか慰めって名目で」 「実際……当選したら、やっぱり落ち込むか?」  嬉しいのを4割ほど抑えた感じで、涼弥が尋ねる。 「名目だからさ。ガッカリはするけど、落ち込まない。さっき言ったろ。お前がいれば、俺は大丈夫」  自然に浮かぶ笑み。  大丈夫。 「どっちにしろ。結果出て学祭終わって、一段落するじゃん。お前と、心置きなく一緒にいたいのが本心」 「いいのか? 泊まり……」  涼弥の瞳に、言葉にしてない続きがある。  泊まりで。  心置きなく。  誰に邪魔されることなく。遠慮することもなく。  セックスする気、あるのか?  思う存分か……ってのは、内容に依るけどな。 「うん。お前がいいなら、お願い。一緒にいてくれ」 「將悟……」  二人の家への、分かれ道にある公園の前。  立ち止まった俺を、涼弥が見つめる。 「今日だけだ……5分」 「明日からは? 禁欲か?」  軽い気持ちで聞いたら。 「そうだな。お前に手出すのは……学祭の日まで我慢する」  何故か、重い感じで宣言する涼弥。 「自分で抜きはするぞ。でなけりゃ……お前、壊しちまう」 「あーそれは……うん。そうして」  ぜひ。  適度に自己処理はしてもらうとして。  それはそうとして……。  俺も禁欲……!?  いやさ。  毎日学校だから、セックスは当然しないけど。  涼弥が俺に手出すの我慢する……ってことは。  俺もじゃん?  俺が涼弥に手出すのもダメなんだよね?  半強制的に。  キスも我慢か?  そりゃさ。  キスして勃ってやりたくなっても、やれないんだから。  どうせ、家帰って自分で出すことになる。  でもさ。  キスくらいしたいだろ!  好きなヤツと。  つき合ってるんだし。  気持ちいいし。  愛情表現ってやつじゃないの? 「キスすんのも我慢?」 「……ああ。明日からな。来い」  涼弥に腕を引かれ、公園の中に入った。

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