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48-6 降参したほうが負けだ

「何でって、理由あるのか?」  尋ねると。  ズンズン歩きながら、涼弥が俺を見る。 「お前と泊まるなら、それまで我慢だ」 「何だよ。禁欲しなきゃ出来ないことでもあるのか? つーかさ。俺と何もしなくても、抜くんだろ? 意味ないじゃん?」 「ある。俺にとってはな」 「また……願かけとか、そういう系か?」  俺の、選挙の落選願って……だったり?  あり得るよね。  涼弥……神秘的っていうかスピリチュアルっぽいもん、信じてそうだから。   見た目に依らず。 「逆だ。こんな……うまくいき過ぎて、バチがあたりそうでよ」  思わぬ返事に。 「そんなのあたるか」  足を止めた。  俺から手を離し、涼弥もストップ。 「バチって、誰があてるんだよ? 天か? カミサマってやつ?」 「わかんねぇが……」 「なら、気にするな。悪いこと何もしてないだろ。うまくいってるのは、気持ちと行動がバッチリ合ってるからだって」  ちょっと、ムキになった。 「天もカミサマも関係なし。お前を好きなのは俺の意思。うまくいき過ぎ? いいじゃん。俺たちが決めることなんだからさ。もっと、うまくいってもいい。限度なんかない」 「將悟(そうご)……」 「あと。わかってんのか? お前の禁欲、俺もまきぞえだぞ? 身に覚えないバチで、我慢させるつもりか?」  涼弥が。  目を瞬いて見開いて、ショック受けたみたいに……変な笑い声を漏らした。 「ど……うした。何がおかしい?」 「嬉しいんだ」 「は?」 「お前が……俺との……お前も我慢って、思うのが……」 「思うだろ。学祭までキスも禁止じゃ、欲求不満になるじゃん」  今度は。  変じゃなく、涼弥が笑う。 「將悟がマジで、俺を……普通の時もほしい、とか……思うってよ」 「何だ。普通って?」 「こういう時だ。何もエロいことしてねぇのに」  意味、不明……じゃない。  まさか。 「お前さ。やる時だけ、俺がお前ほしがると思ってんの?」  言葉はなくとも。  涼弥の瞳が、うんって言ってる。 「普通の時も。したいだろ、キスとか。好きなんだから。エロくなんなくても、お前……感じてたいじゃん。熱とか空気とか、一緒にいて触って……って。おい!」  さっきより強引に腕を掴まれ、歩かされ。公園の奥にある、木造りの城の中に入った。 「將悟」  入り口から見えないスペースの壁に、押しつけられる。 「お前もキスしたいんだな?」 「したいよ」 「ここじゃ、その先出来なくても」 「したい。イキたいから、出したいから……お前がほしいんじゃない。そりゃ、やってる最中はイキたくてほしがってるけど。お前だからだ」  唇を重ねる前に。 「俺は、お前がほしいの」  気持ちを込めて。 「気持ちよくなってるお前も、俺を気持ちよくしてくれるお前もほしい。ただ一緒に歩くお前も、笑うお前も……泣くお前もだ」  言葉で伝える。 「もし、お前が勃たなくてセックス出来ないってなっても。お前がほしいのは変わらない」  灯りの届かない遊具の中で、見つめ合う。 「俺も、お前がほしい。どんなお前でも……お前でありゃいい」 「うん。涼弥……」  手を伸ばす前に、近づいてきた顔を撫でる。  この瞳が好きだ。口も耳も鼻も……全部、涼弥だ。 「ん……っ……は……んっ」  触れる熱い唇。  熱く舐る舌。  涼弥のキスに慣れてきたけど。これに飽きる日が来るなんて、ない。  馴染めば馴染むほど……手放せないだろ。 「っふ……ん……はぁっ……」 「は……將悟……」  上顎をなぞる舌を吸い上げて、絡め合う舌で口内を満たす。 「んっ!」  ゾクゾクする快感を味わってたら。  いきなり、ペニスを掴まれた。服の上からだけど。シッカリ形を主張し始めてるやつを。 「勃ってるぞ」 「あたりまえだろ。触んな!」  涼弥がアッサリと手を離した。 「ああ。あたりまえだ」 「お前、何考えて……んっ」  唇から入り込んだ涼弥の舌に、即座に応じて。  チュッ、ピチュッ……。  唾液と粘膜が立てる音。  荒い息遣いと、漏れる微かな快感の声。  夜の公園の遊具の中で、キスを楽しんで。  壁に背をつけた俺の股間に、涼弥が硬いペニスをあててきたところで。  残る理性を総動員して涼弥の胸を押し、唇から舌を抜く。 「もう……終わり。続きは……土曜日な」 「我慢か?」 「そうだよ。バチは関係なくて……お前、危ないから。ここでしゃぶるとか言い出しそう」 「言ったら、どうする?」  涼弥の声に笑いがまじる。  瞳は熱持ったままだけど。理性、ある程度は戻ってるな。  よしよし。 「ダメか? 誰も来ねぇぞ。来たらやめりゃ……」 「ダメに決まってる。わかってて言ってるだろ」  黙ったまま。涼弥が俺の両手をそれぞれ掴み、壁に留める。 「ライン、引かないと。俺だって自信ない」  至近距離にある涼弥の瞳を見据える。 「お前とつき合ってから……身体がすぐ、反応……」  やわらかく重なった唇が横にずれて、俺の頬をかすり……耳たぶを喰む。 「やッ耳っ舐めんな……っ! ひあっ!」  クチュってデカい音がして。  熱く湿った軟体動物が、耳の穴に入り込んでく感触。 「っあ……やめ……涼弥っやだ……」  振り払おうにも、後ろは壁で。耳のすぐ横には、俺の手首を掴んだ涼弥の腕。  そもそも、何故か力が入らない。 「声、聞こえちまう」  囁く声が、ダイレクトに鼓膜を震わす。 「う……く……はっ……ん……っ!」  意思じゃなく口から出る声を、必死に抑える。  首筋が。  背骨が。  ゾワッとして、腰に伝わる……快感ていうには奇妙な、ブルってなる感覚。  ボッてくぐもって、ピチャッて聞こえる大きな音が怖い……んだけども。  怖さに慣れて。怖くないってわかって、意識が感覚に向く。  耳。舐められるの、少し気持ちいい……か?  穴の中。  耳たぶ。  耳の後ろ……。  ヤバい……感じる! 「りょう、や……やめろ……蹴るぞ」  俺に出来る唯一の最終手段。  最後に耳から首筋に舌を這わせ、俺の唇をペロッと舐め……涼弥が顔を上げた。 「今蹴られりゃ、しばらく動けないな」  俺のジト目に怯みもせず。  悪びれることもなく、笑みを浮かべる涼弥を見て。 「お前、調子に乗ってるのか」 「乗るだろ。ほしいって言われれば」 「エロが、じゃないって……聞いてたか?」 「ああ。エロだけじゃないが、エロもっての、ちゃんと聞いたぞ」  うー……確かに。  その通りで反論出来ない。  怒られないの、わかった上でやってんのか。  ペニス触ったり。  耳舐めたり。  怒らないけどさ!  溜息を漏らした。 「エロエロ言ってんな。放せ」 「……収まらねぇ」  切なげに呟くも、涼弥が俺の手を放す。 「お前がいいっていや、外でもやっちまいそうだ」 「大丈夫。言わない」 「やっぱり土曜まで、禁欲だ。ちょっとは我慢しねぇと」 「出来るのか?」  あ。ニヤリってした。  俺が……自分は出来ないから聞いてると思ったな? 「俺は出来るぞ。焦らしプレイだと思えば耐えられる」 「なら、俺も」 「降参したほうが負けだ」 「いいよ」 「褒美は願いゴトひとつな」 「いい……けど」  咄嗟に考えて。 「外でやるのとかなしで。ホテルの中で出来ること限定にしよう」 「わかった」  自信ありげに了承する涼弥を見てると、早くも負けを予想して弱気になる。  バチ回避のためでなく。  禁欲して願かけるためでなく。  キスその他を我慢して、高めるのは興奮か欲情か。  そんなことしなくても、ほしい気持ちに不足はないのに……明日から、ゆるやか変則焦らしプレイを始める涼弥と俺。  あー何でこうなったかな?

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