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49-1 学祭前日の選挙

 結局。  今日だけ5分、寄る予定の公園には。大幅に時間オーバーして、50分ほど過ごしてから家に帰った。  翌火曜日は、通常プラス放課後の学祭準備。  涼弥は夜、街に出た。  水曜日。  2回目の生徒会役員選挙候補者による朝の出迎えをして、あとは通常プラス学祭準備。  タスキかけて笑顔で挨拶延々と……は、少し慣れ。月曜の初日ほど苦痛に感じなくなってきた。  涼弥と一緒に帰った。  寄り道はなし。  木曜日は、火曜とほぼ同じ。  お化け屋敷をやるうちのクラスと違い、カフェの2-Aは比較的準備が少なく。学祭前日の明日も、涼弥は余裕で7時前に終了出来そうとのこと。  一方うちは。  誰だ。  お化け屋敷の内装に凝り性なのは。  脱出ゲーム要素にこだわるのは。  高度なゾンビ誕生シーンを演出したがるのは。  明日、全員が全力でやらないと……おうちに帰れなそうなんだけど!  学園というか生徒会からのお達しでは、8時には解散しろってことになってる……一応。  でも。  実際は。  つつがなく学祭を開催するためには、準備を終わらせて帰らないとマズいから。時間過ぎてもやるに決まってる。  残業……ありませんように!  学祭を翌日に控えた、金曜日。  3回目の最終選挙活動……朝の生徒お出迎えをこなした。  怖いことに。  苦手なもんも、繰り返すと慣れちゃうのね。  最初は苦痛だった営業スマイルも。  1年の子に抱いてと言われるのも。  2年3年のヤツに1回やらせてと言われるのも。  マジっぽく告られるのも。  にこやかにいなして、気にしないってスキル。身につけちゃったよ!  タスキも抵抗なくなったしな。  ハチマキは巻かなかったけど。  はぁ……。  で。慣れたところでハイ、オシマイってのまでがお約束か。  いや。もちろん、終わりで嬉しいんだけどさ。  午前中が過ぎ。前日の今日は、午後の授業はなし。  昼飯食べて、全校が学祭準備の仕上げだ。  そして。  もうひとつ。俺にとっては大きなっていうか、その結果が重要なイベントがある。  5限6限に行われる……生徒会選挙だ。  1時45分から3時15分までの間に、各クラスまとまって投票しに行く。  投票場所は体育館。  2-Bは2時半に作業を中断して向かう予定になってる。 「將悟(そうご)は誰に入れるの? 自分?」  割り当てられた仕掛け場所で、紫道と照明の配置を試行中。設置したベッドに仕上げの装飾を施しながら、玲史が聞いた。 「まさか。1票差で当選したら泣く。役員に最適な加賀谷にするよ」 「加賀谷かぁ。現役員は安全パイだね」 「……お前も。絶対、俺以外に投票しろ……ってか、して。頼む」  本気で懇願。 「どうしようかな。あの中だと、將悟が一番会長に合ってるし」 「合ってない。やめろ」 「紫道(しのみち)が風紀委員長になれば、お祝いのしがいもあるし……」 「玲史」  意地悪げな微笑みを浮かべる玲史に、紫道が咎めるような視線を向ける。 「將悟をいじめて、いいことないぞ」 「杉原にいじめ返される? いいよ。受けて立つ。相手の弱み知ってる僕が有利だから、余裕だもん」 「こんなので反撃しないって。俺も涼弥も」 「そうだね。將悟に手出すくらいすれば、本気のファイト出来るかな? ちょっとしてみたい。楽しそう」 「やめて。お前以外、誰も楽しくない。とにかく……投票はマジでお願い」  冗談だと笑いつつ。選挙のことは、引かずに頼む俺に。 「大丈夫だ。俺と玲史は1年の津田に投票する」 「え? 津田?」  美術部の後輩の津田は。確かに、自分で立候補したやる気あるヤツだから……生徒会役員にふさわしい。 「朝のアピール見て?」 「いや。風紀になった1年に頼まれた」 「そう。ぜひ投票してくださいって」  俺に票入れようかなーってからかう体をやめた玲史が続ける。 「なんかね、津田って子のこと……狙ってるみたい」 「へー……あ。だから、応援してるのか。津田は俺と違って、役員になりたくて立候補してるもんな」  あいつ、ゲイなのかな?  色恋の話したことないから、わからないけど……あんまりエロに興味なさげに見える。  まぁ、あくまでも見えるだけ。 「え。將悟、その子知ってるの?」 「うん。部活の後輩。当選するといいな」 「するんじゃない? けっこうかわいいし……あーちょっと江藤に似てるよね」 「そうか?」  江藤に……。  言われてみれば、マジメな優等生の外見で……どこかミステリアスで艶っぽい雰囲気がある……かも。 「將悟も見た目、同じタイプだよ。今は特に」 「確かにそうだな」  紫道まで!? 「顔は似てないだろ。それに、今はって何だ」 「男そそる感じ。無意識に誘ってる感じ。わかってるくせに」 「……やめろ」  本気でわかってないし。  誘ってるなんて言われるのは、心外だ。  選挙活動で声かけられても、全てノーして。  愛想振りまいてもないし。  涼弥しかそそる気ないし、誘う気ないし……!  玲史がギラついた瞳で唇の端を上げる。 「僕も紫道も將悟に投票しないけど。雰囲気に誘われたヤツらは、票入れると思うよ」  う……。  もっと別の着眼点で選ぶべきだろ……やる気度とか、有能さとか!  救いを求めて紫道を見た。 「覚悟はしとけ。俺もしておく」  根拠なく大丈夫だって言わないのは、紫道のやさしさだ。  覚悟の種類は違えど、共感してくれるのはうれしい。  けど。  紫道の言葉で、リアルに覚悟の必要性を実感した。  生徒会役員……なるかもしれない。

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