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49-2 どこがオススメ?
時間になり。作業中のクラスメイトに声をかけて、選挙へ。
委員長として、みんなを集め。
体育館に向かう前に……。
生徒会役員になりたくて選挙に出てるわけじゃない候補者として、ひと言コメントした。
『特に選びたいヤツがいないって理由で俺に投票するのは、やめてほしい。それだけは頼む!』
最後のあがき。
でも、言っておかないとさ。
うちのクラスの候補者だからって入れる票、あったら嫌じゃん……?
投票場の体育館に着くと、2-Cと2-Dがいた。あと、3年が2クラス。
「おっ早瀬! 票入れといたぜ」
「俺も。がんばってねー」
知らない3年の二人組に、笑顔で言われた。
「ありがとうございます……」
ありがたくない。
嬉しくない……けど。
そう言うしかない。
何でこんなやる気ないヤツに、貴重な1票入れちゃうんだよ……!?
心で叫びつつな。
気を取り直して、投票用紙を取りに向かう。
「早瀬!」
また呼ばれ、声の主に目を向けた。
投票を終えて戻る、C組の藤村だ。
「お前つき合ってるの、A組の杉原なんだって?」
「そうだよ」
月曜水曜、今日と。朝の選挙活動で顔合わせてて、ちょっかい出してこなかったから……興味失せてくれてよかったって思ってたのに。
今頃になって、耳に届いたのか。
まぁ、わざわざケンカ腰になる必要もなく。普通に肯定した。
「俺がやりたかったけど。ま、いいや。杉原に飽きたら、いつでも声かけて」
「飽きないし。お前に興味ないから」
「冷たいねぇ。仲良くしようぜ。一緒に生徒会やる仲間だろ」
口を開くも、言葉に詰まる。
「明日からよろしくな」
俺の返事を待たず。ニッと笑って、藤村は去っていった。
「ずいぶん自信あるみたいだね」
後ろにいた樹生に言われ。
「あいつ……当選するかな」
溜息とともに呟いた。
「朝けっこうアピールしてたし、ウケもよさそうだったから……するかも。將悟 と違う層の票、集まるんじゃない?」
俺も同意。
やる気あって立候補してるヤツに、当選してほしい。てか、するべきだ。
けどさ。
「藤村があんな調子だと、將悟はやりにくい? 一緒に役員は」
そう。
俺が役員にならないなら、藤村になってほしい。
俺が役員になるなら、藤村と一緒には……さらに気が重い。
「うん……って。お前も、俺が当選するって思ってるのか」
質問じゃないトーンで聞く。
それが、第三者から見た予想……らしいからな。
「俺はお前に投票しないけど……候補者の中で、將悟と加賀谷は決まりだと思うよ」
「あー加賀谷は、うん。来季の生徒会に必要だ。でも、俺は……」
「役員になっちゃったら、その時はお前……クサらないでがんばるだろ?」
「……しかないじゃん?」
「杉原は風紀決定なんだよね? 川北と高畑も」
「うん……」
「他人事で悪いけどさ……」
樹生が微笑む。
「大丈夫。やれるよ」
「ん……なったら、な」
諦めに似た感じで薄く笑って。
投票用紙を手に、記載台へと向かった。
「学祭って、やっぱりみんな気分上がるよね」
体育館から戻る道すがら。
話題を選挙から学祭にチェンジして、樹生が言う。
「面倒だけど」
「準備してうまくいけば、充実感あるし……祭りの雰囲気で多少は興奮するかな」
「夜は杉原と泊まり?」
「あー……うん。そのつもり。いろいろあったし、せっかくだし……」
照れて。つい理由を探す俺。
誰にも邪魔されず、一緒にいたい。
これで十分なのにな。
色恋の知識経験ともに豊富な樹生は、そんなの承知の様子で。
「ホテルに?」
「うん……」
そうだ。聞こう。
「どこがオススメとかあるか?」
全く知らないからさ。
「ここはやめとけ、とか」
ほんの数秒、樹生が考える……思い出してるっていうのか。
「今はどこもそれなりのサービスあるけど……將悟が気にならないなら、プレジールかな」
あーそこ。
涼弥が和沙と入ったとこか。
女といて、セックスしないで昼寝したとこな。
「何かいいポイントあるのか?」
「浴室が広いんだ。どの部屋も」
「別に風呂はどうでも……流せればいいじゃん」
「広いと、そこでもやれるから」
歩きながら。
樹生を見つめる。
「何でわざわざ……デカいベッド、あるんじゃないのか? ラブホって俺、行ったことないけどさ」
「ベッドでもやるよ。でも、せっかくだから浴室も使う。シーツの上だと出来ないことも出来るし。声も響くから……いいんだ」
はじめて。
樹生の瞳にエロさを感じた。
完全ノンケで、俺を見る目は100パー健全だけども。
沙羅の弟の立場から見ると、姉の彼氏で……。
想像はしないよ?
でもさ。
なんか……微妙に照れるな。
「お前も、沙羅と……泊まるのか?」
責める気はもちろんなく、純粋に聞いてみた。
「泊まるとしたら来週、沙羅のほうの学祭の日になるけど……迷ってる」
樹生が眉を寄せる。
「いいのかな。ホテルに一晩って、マズい気がするんだよね」
「何が?」
本当にわからなくて。
「前にも泊まってたし。ヨリ戻してからも、お前んち泊まりに行ってただろ」
「俺の家とホテルは違うから」
「ホテルも行ってるじゃん」
「夜通しってのはない。そんな長い時間、ラブホに閉じこもってたら……自分が何するか自信ないんだよ」
真剣に困り顔の樹生。
何するか、の『何』にあり得るのって……何!?
ラブホってそんな異空間なの?
行き慣れてる男が、自信ないって……。
「何してもっつーか……お前、沙羅を傷つけることしないだろ。大丈夫……」
言って、気づいた。
これ。涼弥に言ったよな。
暴走しそうだって不安がるから。お前は、俺が傷つくことはしない……って。
「お前、沙羅のこと……本気なんだな」
樹生の表情がゆるむ。
「まぁね。今回は抑えなくて。軽い気持ちだけでつき合えれば、それで満足だったのに」
「抑えるって、気持ち? 必要ないだろ」
「……だといいけどさ」
深い息を吐いて、樹生が意味深な笑みを浮かべる。
「お前も。ホテルで一晩一緒にいるなら、気をつけろよ。杉原も……リミッター振り切りそうだから」
「わかった。でも、たぶん大丈夫……」
言いながら。
一応、気をつけようかなと思った。
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