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49-3 衣装チェック

 放課後。  時刻は6時半を回ったところ。  お化け屋敷の準備のほどは……完了まで、残り10パーセント未満。  やるじゃん、みんな……!  よかった。  残業なしで家に帰れそうだ。  仕掛けと内装はほぼ終わり、今は衣装のチェック中。 「似合うねー、ギャルソンの格好」  (かい)にそう言われた俺の衣装は。  白シャツに黒ベスト、黒ズボン。黒のクロスタイ。  黒の腰巻きエプロンロング丈。 「これ、このままウェイター出来そう……本格的だよな」  ただし。  うちのクラスの出し物がメンズカフェだったら、だ。  お化け屋敷のエスコート的には……どうなんだろう?  まぁ、何でもアリか。 「お前も似合ってるよソレ」  凱もエスコート役で、着てるのは戦闘服だ。  ソルジャー?  正規の軍隊ってより、ならず者の集まる傭兵部隊にいそうな感じ。 「この学校、いろんな衣装あんね。さっき、海賊軍団に会ったぜ」 「1年のどっかのクラス、敵と勝負しながらの宝探しらしいから。そこかもな」  エスコート役の衣装合わせは、2-Bの教室でやってて。   「学祭用に何でも揃ってて便利だけど……」  前のほうで、どよめきが起きた。 「おー! すげー」 「女に見えるぜ」 「その格好で抱かせろよ」 「明日の客引き、お前が回ればバッチリじゃね?」 「あいつ、普段から女装してんのか?」 「女の格好の男なら、女でよくね?」 「やられねぇように気つけなきゃな」 「確かにかわいいけどさ」  少し離れたところでは、微妙なコメントも。 「男子校にメイド服って。着る人間、選ぶだろ」  黒ミニスカのオーソドックスなメイド服。フリフリエプロンと膝上ソックスは白。  これ着てるの、新庄だから……違和感なくセーフなだけで。 「わざと似合わねぇヤツが着んのも、おもしろいんじゃねぇの?」 「毎年、それもある。去年見た3年のは……思いっきりスベってた」  凱がニヤッとする。 「涼弥がスカート穿けばウケるぜ。カフェならアレ、着るかもねー」 「え……」  メイド服姿の涼弥……。  激しく似合わないだろ……!  あー……でも。  似合わないなら。とことん似合わないほうが、まだ見てて清々しいか。  中途半端なのが一番気マズくて、恥ずかしいよね。  見る側も見られる側も。 「いいかもな」 「お前も似合いそー」  眉を寄せた。 「俺は嫌だ」 「涼弥が着ろっつったら、着てやんだろ?」 「……着ない。俺を女っぽくして楽しいって言われたら……ちょっと引く」 「何しても楽しーんじゃん? けどさーお前の嫌がることは基本、しねぇよ」 「だといいな」  嫌だって言ったのに、出さないでイカせるのを強行した涼弥を思い出し。  今度、俺が嫌なことしたがって……したら。  お仕置きしてやる!  そう決意して。  学祭実行委員の佐野と岸岡の衣装チェックを受け。制服に着替えてから、お化け屋敷へと戻った。 「う……わ……!」  第3多目的教室の入り口から廊下にかけて、ゾンビ役たちがいる。  ゾンビの衣装は、うちの制服をアレンジしたもの。  薄いミントグリーンのシャツに、濃いグレーの細かいチェック柄のズボン。ほとんどは、深緑のブレザーは着てない……学園のゾンビたち。  まだ、顔にメイクはしてないけど、制服は加工済み。  はだけたシャツは裂け、袖やズボンはところどころ破れ。血や土やほかの何かで汚れて悲惨な様子で……。  パッと見、レイプ被害者の集団じゃん……! 「あ、將悟(そうご)。どう? いい感じでしょ?」  玲史だ。  服ズタズタで……衣装ってわかりきってても、痛々しいな。かわいい顔してるからよけいに。 「うん……バッチリ。なんか……人襲うってより、襲われた感強いけどな」 「血糊メイクすれば、イメージ変わるから。何? この格好そそる?」  玲史の瞳があやしく細まり、上げた腕でシャツがさらにはだけ……。 「いいよ? 返り討ちにしてあげる」  見えてる! 乳首!  水着とか。上半身裸が自然なシチュなら、特に何も思わないのに。  破れた服の間にチラチラされると気になる……って、普通だよね? 「誘うな」  俺へと伸ばした玲史の手を掴んで下ろさせたのは、紫道だ。 「本気にしたら、どうする気だ?」 「なびかない男しか、からかってないでしょ。ね?」 「もちろん、俺は本気にしないけどさ……」  俺に同意を求める玲史の意図がわからない。  紫道に妬かれたいのか。  その気がないヤツを、からかいたいだけなのか。  その気になられたら……どうするのか。 「なびくヤツもいるだろ。紫道がいるんだから、やめろ」 「おー玲史」  凱と新庄が来た。 「いーねーやりたくなる。俺がタチで」 「僕は川北がいい」  凱も新庄も。  冗談にしては、瞳がギラっとしてるような……。 「キレイな筋肉……触っていい?」  新庄が、紫道の開いたシャツから見える腹筋に指先を近づける。 「ダメ。触ったら犯す」  うおっとー!  思いがけない玲史の言葉に。  驚いたのは俺と、紫道。 「僕のかわいいネコにするんだから。お触り禁止」 「ケチ。自分は外でほかのネコ飼ってるくせに」 「今はいない。紫道だけ」  玲史に笑みを向けられた紫道が、下を向く。  照れてるのか……少し赤い。 「ほら。岸岡が見てる。あいつに抱いてって頼めば?」 「絶対、頼まない。お願いされたら考えるけど」 「へーまんざらでもないんだ」 「そんなことない!」  機嫌を損ねた新庄が、教室の中に消えていった。 「玲史」  空いた間に、凱が口を開く。 「ほかのヤツに触られんの嫌なら、お前も浮気すんなよ」 「あーそっか。そうなるね。僕のこと、独り占めしたい?」  問いは紫道へ。 「俺は……」 「行こーぜ」  凱に促され、見つめ合う紫道と玲史から離れた。

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