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49-4 メイドカフェ!?

 俺と(かい)の視線の先に、ちょうど樹生と佐野がいた。近くに結都(ゆうと)も。  樹生と結都もゾンビ役で……二人もやっぱり、襲われた直後って装いになってる。  なんか。  顔にベッタリ血糊とかつけてないと。服だけズタボロだと、見ててかわいそう感がすごい。  ムリヤリ犯されたら傷つくよね……ノンケならなおさら……うう……って。  勝手な仮定で同情してる俺、バカキモいな。  てか、エロ寄りの思考回路がヤバい。  レイプじゃなく。ほかにあるじゃん?  動物に襲われたとか。  敵と戦って負傷したとか。  宇宙人に襲われたとか。  崖から落ちたとか。 「誰に強姦されたの?」  こっちに来た樹生に、凱が言った。  あ。よかった!  俺と思考……同じ回路通ってるわ。 「あー見えるな。そんなふうに」  佐野が口角を上げる。  樹生は苦笑い。 「やめろ。その見方」 「お前、エスコート役じゃなくてよかったの?」 「学祭でナンパはしないから」 「沙羅ちゃん?」 「女子部のコ多いだろうし、さすがにね」 「樹生は当番、午後だっけ?」 「そう。沙羅たちと、うちのお化け屋敷も回るよ。海咲(みさき)ちゃんが楽しみにしてるみたいだし」  午前から昼過ぎまでの俺とは、樹生も凱も別シフトだ。  毎年、開始から終わりまで盛況の学祭は客足が途切れず、空いてる時間帯ってのはない。 「いい仕上がりだからな。がんばったかいあったぜ」  実行委員の佐野は、確かにがんばってた。  明日もがんばれ。 「ちょくちょく様子見に来るけど俺……1日中特にやることなしって。マジでいいんだよな?」  謙虚なこと言う佐野に。 「そのためにがんばったんだろ」 「岸岡がここで呼び込みがてら、足りなきゃエスコートするっつうからよ」 「あいつはナンパ目的。引っかけたらどっか行っちゃうんじゃん?」  凱の言葉に、ホッとする佐野。 「3-Eのコスプレ喫茶と、A組のメイドカフェに行きたいって海咲が……」 「え!?」  声を上げた。 「A組って2-A? メイドカフェなのか……!?」  聞き間違いじゃ……。 「らしいぞ。出し物はただのカフェってなってるけどな」 「マジみたい。今日、どこも衣装合わせだろ? 第5多目に入ってくメイド、チラッと見かけたし」  佐野と樹生を見て、息を吐いた。 「そんなの聞いてなかったから……ビックリだ」 「んじゃ、俺も見に行かねぇとなー。涼弥のメイド姿」  凱がおもしろそうに笑う。 「案外イケるかもしんねぇぜ?」 「……明日、楽しみにしとくよ」  俺も笑った。  涼弥も午前中のシフトだから、ちょっと抜け出してでも……見てやらないとな。  ゾンビ役の衣装合わせのあと。  お化け屋敷の内装と仕掛けの最終チェックをした。  エスコートはともかく。ゾンビが午前と午後で交替すると、中の動く仕掛け担当が変わる。  だから。内装は同じでも、ゾンビの出現場所と登場シーンは微妙に違う2通りあって。  二度楽しめる仕様になってるのは、なかなかいいよね。  飾りつけも仕掛けの作動も。暗さもライトも問題なし。  時刻は7時50分。  やったー! 終わりだ!  2-Bのゾンビお化け屋敷は全ての事前準備が整い、明日のオープンを待つばかり。 「みんな、お疲れ。明日は7時半集合で……じゃ、解散!」  岸岡の号令で、早くも達成感で満足げなクラスメイトたち。  本番はこれからだけど。  すでにやりきった感みたいなの、確かにあるな……。 「あ。終わったの?」  みんなとバイバイしながら、教室から出ると。タイミングよく、風紀の見回り打ち合わせに行ってた玲史と紫道(しのみち)が戻ってきた。 「うん。ちょうど今……涼弥!」  紫道の後ろに、涼弥がいる。 「A組は7時前に解散したんだって」  俺のほうに来る涼弥の肩を、玲史が叩く。 「明日の夜まで、もう少しの辛抱だね……お互い」 「ああ、そう……だな」 「じゃあ、バイバイ」 「ん……また明日」  涼弥と俺に手を振って、玲史と紫道が教室に入ってく。 「お疲れ。風紀は問題なしか?」 「ああ。予定通りだ」  微笑む涼弥と、昇降口に向かって歩き出す。 「A組の……カフェも?」 「簡単な飲み物メインで、準備はあんまりないからな」  通りかかった第2多目教室の壁の張り紙が目に留まる。 『あのヒーロー&ヒロインに会える!』 『写真撮影可』 『お触り厳禁! 握手OK!』  アニメかネトゲか何かのキャラが、何人も描かれてる。  こういうのに詳しくないから、どれが誰だかわからないけど……なんか、楽しそうだ。  これか。  3-Eのコスプレ喫茶。  男しかいないのに、女のキャラ推し気味なの……気になるな。  それはともかく。 「お前も穿くのか? スカート」  俺同様、コスプレ喫茶のキャラ絵を見てた涼弥に尋ねる。 「メイドカフェなんだろ?」 「ああ……一応……形だけ……」  一瞬、驚いた顔をした涼弥が、きまり悪そうに答える。 「バレないと思ったが……」 「今日、知った。でも……バレるじゃん。明日」  止まってた足を進める。 「メイドの格好するって、何で言わなかったんだよ」 「聞かれなけりゃ、言いたくねぇだろ」 「カフェって聞いて。メンズカフェだと思い込んじゃったからさ」 「……男がメイド……誰が喜ぶんだ? うちのヤツら、半分以上賛成して決まっちまってよ」 「全員、メイドになるのか?」 「いや。どうしても嫌なヤツは、執事の格好して男もてなせっつうから……そっちのが、嫌だろ。お前が」  涼弥を見つめる。 「じゃあ、着るのか。メイド服」 「みっともねぇが……お前以外にどう思われても別に……」 「俺、見に行くよ」  涼弥の眉間に皺が寄る。 「来るな。見せたくねぇ」 「俺のために、執事はやめたんだろ。お前だけじゃないんだし。みんなで着てれば自然だ」 「そんなわけあるか。異様だぞ。まともに見えるのは2、3人しかいねぇんだ」 「ほとんどが似合ってないなら、いいじゃん。上沢もメイドになるのか?」 「あいつは、ノリ気だ。俺と張るほどおかしいが……楽しんでやがる」 「へぇ……」  ゴツい男の女装。  それはそれで……けっこう楽しめるよね。 「お前もさ。どうせなら、ギャグに振り切ってやれば。ウケるよきっと」  励ますと。  はーっと。涼弥が大きな溜息をついた。  昇降口を抜け、校門へ。 「もういい。お前があの格好するんじゃなけりゃ……」  涼弥がバッと俺を見る。 「お前は、何着るんだ?」 「ギャルソン服。レストランのウェイターの……シャツにズボンにベスト、エプロン」 「お化け屋敷の案内……でか?」 「そこは気にするな。とにかく、俺は女装しないからさ」  駅に向かって歩きながら、ふと聞きたくなった。 「涼弥。お前……俺がメイド服着たら……どう思う?」  少し考えるふうにした涼弥の顔に笑みが……。 「かなり、かわいいぞ。抱きたくなる」  頭ん中! 今、着せてるだろ俺に……!  思いのほか、ショックだ。

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