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49-5 降参する

「お前さ……」  何て言おうか自分でもわからず口を開くも、言葉に詰まる。 「メイド服も悪くないが、これがいい」 「え……これって、制服か?」  涼弥の意外な意見に。  俺に女の部分、求めてるのか、とか。  女っぽいのが好みなんじゃ、とか。  本当は女のほうがいいんじゃ、とか。  そんな、負の思考が停止した。 「一番見慣れてるせいか……お前思い出すの、いつも学校の格好だからな。それに、スカートじゃ女みたいだろ。こっちのお前のほうがいい」 「そっか……うん」  勝手にへこみかけて、勝手に復活。 「お前の妄想で俺、制服姿なのか……」 「いや。妄想じゃ何も着せてねぇ……裸だ」  マジメに。当然のことのように言う涼弥に、笑った。  とっくに夜の帰り道。  別れ道の公園を前に、立ち止まる。 「將悟(そうご)……我慢、出来るか?」 「お前は?」 「する。あと24時間もないだろ」 「うん……そうだけどさ」  まだ、21時間? 22時間? そんなにあるじゃん! 「降参するか?」  涼弥がニヤリ……。  この我慢比べ。圧倒的に勝者が得だ。  降参したら負け……ほしいものが手に入る。  ここじゃキス止まりだけど。  降参しなかったら勝ち……降参したのと同じ。ほしいものが手に入る。  プラス。  褒美の願いゴトもゲット。  涼弥に負けるのは全然かまわない。  ただ……。  願いゴトの内容が気にかかる。  俺が涼弥にするお願いは、たかが知れてる……ていうか。  普通に頼めばくれるものしか思いつかない……ていうか。  コレして、コレやりたい、コレほしいってより。  コレするな、コレやめて……ってのになりそう。  マイナス方向の願いゴトって。  つまんないよな。  けど。現実として。  エロ関連だとさ。  コレしてアレやりたいソレほしい、は……嬉々としてやるだろ。涼弥は。  でも。  涼弥の願いゴトは。  願いゴトとしてやりたいことは。  きっと、俺の同意が必要な何かで……。  願いゴト聞くって形じゃなきゃ、俺がいいよって言わないような何か……の可能性高いじゃん!?  だから……簡単に降参するの、よくない予感。  好きな男と今、キスしたい気分でも……我慢だ、我慢。  もちろん。  涼弥が降参してくれて、俺が勝って焦らし終了がベスト。  まぁ……涼弥も同じこと考えてるだろうから、期待はしてしないけどさ。 「しない。お前が降参してくれるなら嬉しいかな」  ちょっとズルめの素直な気持ち。 「俺もだ」  だよね。 「あ……二人とも我慢出来たら、引き分け?」 「そうなるな。褒美も二人ともだ」 「は!?」  微笑みを浮かべてた俺の顔が固まる。 「え……じゃあ……」  我慢しても。  明日、涼弥の願いゴト聞くのか俺……!?  俺のも聞いてもらえるなら、いいか……って。  思えない!  どうなのソレ。  意味ないじゃん?  なんか……なんか、根本的におかしいのは……この我慢の対価か?  俺か?  涼弥にする、どうしてものお願いってのが……ないのがダメなのか。  その時点で、この賭けっていうか……焦らしプレイは、涼弥の一人勝ちのためにやってるようなもん……。 「明日、何でも聞いてやる」  やさしげな笑み。  熱い瞳。  これじゃ……。  お前の願いゴト、聞くの無理だから。俺の願いゴト、ソレ拒否ってことで……帳消しな!  なんて裏技、使えない。 「何でも……俺もか? 俺が何お願いしてもお前、聞くの?」 「当然だ。出来ねぇことなんかあるか」  そう……俺、そんなヌルいのか。  いや、違うな。  俺のお願いなら、ほんとに何でもやる気なだけ。  それはそれで……怖いだろ。 「お前……俺に何してほしいんだ?」 「……内緒だ」  微かに、涼弥の表情が曇った。 「まだ、ハッキリ決めてないからな」 「涼弥……」  もうオーケーしちゃってるけど。 「俺がどうしても嫌だってこと……しないよな?」  涼弥の瞳が一刹那、揺れた。 「お前は? 俺がどうしてもやりたいこと、するの嫌か?」  また。  ズルいよねソレ……。  見つめ合う。  探るように……いや、懇願するように、だ。 「嫌じゃない」 「俺もだ。しない」 「ん……わかった」 「將悟」  涼弥が俺を自分のほうに向け、頭を屈め。自分の額を俺のにつける。 「キスしたい」 「いいよ。俺の勝ちだ」  熱い溜息を感じた。 「抱きたい」 「明日……な」  自分の息も、熱くなる。 「涼弥……」  くっつけてるおでこが、熱い。 「好きだ」  涼弥が先に言った。 「俺が言おうとしたのに……」  じゃあ、これは。  俺が先に……するしかないだろ。 「好きだ。降参する……キスさせて」  涼弥が頭を上げる……のを、ブレザーの襟を掴んで止める。 「ここで出来る程度のだけ。舌入れたら、お前も負けな」 「將悟……」  涼弥の顔を引き寄せて、キスした。  熱い唇を触れ合わせる。  そこから、中に広がる熱……コレが、もっとほしい。  もっと強く。  もっと深く。  熱がほしくなる……けど。  何度か。  ほんの数ミリだけ離した唇を、また重ねるってのを繰り返した。  舌は出さない。涼弥も出してこない。  なのに、熱い息で唇は湿り。  湿った唇は、外気で冷える間もなく熱いまま。 「しないのか? 降参」  涼弥の襟を掴む手を緩めずに、口を離して聞いた。 「今は……これで十分だ」 「エロくないキスだけで? 珍しいじゃん」 「お前が我慢出来なくてしたってので、満足だからな」 「中途半端だろ」  ニヤッと笑って見せる。 「でも、ここまでだ」  降参して、負けたんだから……もっと深いキスがほしいならすればいい。  こんなんじゃ、割に合わない。  そう思うのに。  どうしてか……触れるだけのキスで、俺も満たされた。  心が、足りてるって言ってる感じ。  身体に回る熱はくすぶってるけど。 「いい。楽しみは明日にとっておく」  涼弥も、欲を乗せた瞳で微笑む。 「覚悟しろ。今夜はよく寝とけ」 「ん……お前もな」  もう一度。  ゆっくり、確かめるように。軽く喰むように。  涼弥と唇を重ねた。  明日、覚悟しておくことが増えた。  早めに。  今夜はぐっすり眠らなきゃ、いろいろもたなそうだってのに。  長く楽しい明日に思いを馳せ、軽く興奮気味で……すぐには寝つけないかもって心配する俺。  ガキだな。

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