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51-5 お化け屋敷の仕事をこなし

 猫耳カチューシャと高野が撮ってくれた写真を手に。混雑する廊下を抜け、階段を下りてお化け屋敷へと戻る。 「ごめん。遅くなって……」 「委員長! どこ行ってたの、もう。今、お客さん女ばっかりだから。次エスコートよろしく」  受付にいるのは新庄だ。 「岸岡は遊びに行ったのか?」  ずっとここに詰めてることないんだし、そのほうがいいよね。 「1年の子と中入ってる。好きですとか言われて、いい気になって」 「まぁ……岸岡って今フリーみたいだから別にいいんじゃ……」 「あの遊び人、ムカつく」  えー!?  本当はどうか知らないけども。遊び人レベルは新庄も変わらなく見える……って、言えない雰囲気。  本気で不機嫌オーラ出してるから……あ。  もしや、岸岡にホレてるなんてこと……。 「早く耳つけて。後ろ、エスコートご所望のお客さんだから」  本心はどうあれ、新庄のしたいようにすればよしとして。 「オーケー」  ブスッとした声に従い、猫耳を装着。  さてと……シッカリ仕事しなきゃな。 「いらっしゃいませ。エスコートの早瀬です。よろしく」  女子高生らしき二人組に笑顔で挨拶し、ゾンビたちの待つお化け屋敷の中に入った。  エスコート役で女の客に同行すること5回。  4組は女子高生二人ずつ。ひと組は中学生3人。  うまくエスコート出来たと思う。  ヒントを揃えて、ゾンビを楽しむ女のコたちをフォローして。時折くる際どい質問にも、適度に本音と建前を交えて答えて。  その後。  11時40分頃に、バックヤードから出口前へ。答え合わせのテーブルの後ろ……カーテンで仕切られたスペースに入り、前の当番と交替。  客がヒントから選んだ答えのボタンを押したら、答え合わせの仕掛けを操作するのが役目。  出口横のイスに座ったゾンビの後ろにはベニアの壁があって、その裏に待機する。  正解なら。  テーブルの上と出口のドアの上にある緑のランプを点灯。  取りつけてあるチェーンを引いて、お化け屋敷から外へのドアを解放する。  不正解の場合。  赤いランプを点滅。  まずは、ゾンビの唸り声を流す。  次に。  手引書の指示通り。引っ張るヒモを探して、ヒモを客がゾンビのお腹に手を入れてきたら……。  その手を掴む……!    これ、すげー驚くの。  だから、楽しいの。やりたい……のに。  俺の当番の間、不正解はひと組だった。  客の手を掴んで驚かすのは、最初だけ。2度めからは邪魔しない。  お腹の穴の先は、ブヨブヨの水風船が入った箱。その中にあるヒモを見つけて引っ張ると。正解の場合と同じように、脱出の扉は開かれる。  大した謎も難関もなく。10分から15分程度のルート設定のお化け屋敷としては、上出来だよな。       出口番を終え、受付に戻った。  昼になってますます賑わう客の対応は、エスコート役のひとりがやってる。  案内人なしで入る客もけっこういて、エスコート待ちで行列の進みが滞ることはなくてよかった。  大学生っぽい女3人組の案内をこなして廊下に出ると、利発そうな少年のお出迎えが。 「將悟(そうご)。久しぶり」 「(れつ)! 元気か?」 「うん。ゾンビ見に来たんだ」 「いっぱいいるよ」 「(かい)が、將悟がエスコートしてくれるって。ソレ、似合ってるね」  烈の視線は俺の頭……そう、女のコたちにも評判よかった猫耳。  似合うのは、あんま嬉しくないんだけども。 「あ……義務でさ。凱は?」 「あっちでスカートの人と喋ってる」  烈の指差すほうに、受付まであと少しのとこに並んで新庄と話す凱がいた。岸岡も。  あと……長い黒髪の女のコも。 「あれが一緒に住んでるって子?」 「うん。(せき)っていうの」  近づく烈と俺に気づいたのか、その子が振り向いた。  おおッ! 美少女だ……!  目が合って。  微笑むその子……汐は、清楚で大人びてる雰囲気で。かわいいってよりキレイな感じ。 「待ってたぜ。エスコートして、猫ちゃん」  凱の言葉に。すっかり頭に馴染んだフサフサの耳を、外したくなるのをグッと堪える。 「あ。この子、汐。俺の彼女。よろしくねー」  そうだった。  汐は、凱の彼女ってことにするって言ってたっけ。 「よろしく。將悟くん」 「はい……こちらこそ……」  おしとやかそうな年下の子なのに。見えない迫力を感じて……つい、かしこまる。 烈の時みたいに。 「お前、信じんのか? こんなお嬢っぽいのがコイツの女ってのは、納得いかねぇ」 「嘘つく必要もないだろ。お前が納得しなくても問題なし」  岸岡に聞かれ、信じる体で答える俺。 「けどよ。チャラいのに清純派引っかけんの、反則だよな。つーか、絶対こっちの素質もあるはず……」 「チャラく見せてるだけで、ほんとはキミみたいな遊び人とは違うんじゃない?」  新庄が口を挟む。 「うちの学園来てから、凱が誰かと……って、聞いたことある? ないでしょ。キミにも僕にも落ちないし」 「それ。もっと納得いかねぇ。凱、そろそろ本性出せよ」 「んー? これが素だぜ?」  凱は、いたって普段どおり。 「彼女もほんと。ノンケで浮気もしねぇから俺」  信じてない瞳で、岸岡が汐を見やる。  と、汐が短く息を吐いた。 「凱。頭下げて」  言われて屈んだ凱の首に手をかけて……汐が唇を重ねた。  う……わ……!?  え?  彼女のフリじゃないのか?  こんな人前で……客も見てるよ!  大人びてても中学生なんだよね?  烈もいるし!  焦る俺をよそに。  いきなりのキスに素早く応じて汐の腰に手を回した凱は、ギャラリーを気にもせず。  数秒ののち。深く合わせた唇を離し、岸岡を見る。 「オッケー? ほんとだろ」 「ああ……そう、だな……」  言葉が続かない岸岡と、目を瞠る新庄。  俺たちの後ろで、静かなどよめき。 「あいつ、マジでノンケなんだ?」 「両刀かもよ」 「あの子、おとなしそうなのにやるね」 「けっこうかっこいいじゃん。ああいう顔好み」 「今のガッツリしてたよな」 「はい。3人分ねー」  次の番になってたらしく。一瞬呆然としてた受付のエスコート役に、凱が入場料を払い。 「んじゃ、入ろうぜ」  何事もなかったように烈を手招き。 「行こう、將悟」 「うん……」  あとに続く俺の前で。廊下に並んだ客たちに向かって、汐が頭を下げ。  そして、優雅に微笑んだ。  お騒がせして申し訳ありません。でも、お気になさらないで……って感じ。  やっぱり。  凱の身内だけあって……この子もどこか変わってる、と思った。

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