216 / 246
52-3 中庭でランチ
焼きそば3パックとタコ焼き2パックを手に、俺と涼弥は中庭に移動した。
昇降口の反対側。
第一校舎と第二校舎の間のこの場所は、屋台の出てる校門側と大体同じ広さで。時々学園の行事で使う以外はただの憩いの場だ。
四方にベンチが置かれ、いろいろ木も植わってて。女子部の前のナンパスペースの学園版ってところ。
タコ焼きの屋台で呼び込みをする津田に、涼弥を紹介した。
まだ木谷と話してないらしく、涼弥に向ける瞳が懐疑的だった……ので。
『ずっと友達で、お互いに好きだってわかるまで時間かかったけど……俺は今、幸せだ』
そう言った。
少し目を見開いて頷いた津田に、伝わってればいい。
俺が涼弥を好きなこと。
大切な友達が恋人になり得ること。
好きって気持ちは、外に出さなきゃ伝わらないこと。
これから直面するだろう木谷の告白を、せめて疑わずに……本気なんだって、ちゃんと向き合って聞いてほしいからさ。
「木谷のヤツ、津田はお前と同じタイプだって言ってたが……直に見てもどのへんが同じかわからねぇ」
空いてるベンチに腰を下ろし。焼きそばを食いながらの、涼弥のコメント。
「どっちかっていや、江藤に近いぞ」
「あーそれ、玲史も言ってた」
そうか。
津田に投票してくださいって頼んだ風紀の1年は、木谷か。
「お前も、津田に票入れたのか? 木谷に頼まれて」
「ああ。お前は?」
「加賀谷」
俺の投票先を聞き、微妙な顔をする涼弥。
「必要だろ。役員経験者」
「……あいつはゲイか?」
あ、そこなの。
「らしい、けど……だからって。もし、一緒に生徒会役員になっても……警戒するなよ」
「そうだな。何の噂も聞かないが、そうか……」
これ。玲史の情報じゃ、タチでサドだってこと……伏せといていいよね。
関係ないヤツの性癖、知らなくていいし。
加賀谷のプライバシーに関わるし。
ここだけの話、だったし。
涼弥がSMに興味持ったら嫌だし。
「加賀谷が会長になればいいよな」
「將悟 ……」
「ん?」
「カジノのポスター見ただろ」
その話題に、眉を寄せた。
「うん。カンベンしてくれって思った。江藤のクラスで、会長自らの提案で。選挙に関心集めるためらしいけど」
大きく溜息をつく。
「終わってんのに。つーかさ。来年、よけい立候補者いなくなりそうじゃん? 極力目立ちたくないのに」
愚痴る俺に向ける涼弥の瞳はあたたかく。
「目立つのが好きなヤツもいるからな。そいつらのためだって思っとけ」
「ん……そうする」
微笑んだ涼弥が、少し申し訳なさげな顔をして。
「風紀の見回りで報告行った時、坂口が……お前の彼氏、一番人気だっつって。一度カジノに連れて来い、盛り上がるから……ってよ」
表情に合った内容を口にした。
「ぜっ……たい、行かない」
全力でノーだ!
「行きたいのか? カジノ」
険しい目で尋ねると。
「お前が嫌なとこには行かない」
望むセリフを言ってくれて安心する。
「サンキュ……まぁ、あの選挙のベットがなければおもしろそうだけどさ」
「カードゲームか」
「お前、ポーカー得意だもんな」
「褒美かバツゲームがありゃ、本気出すが……」
何かを賭けるの、好きっぽいよね。涼弥は。
「今日はいい。どこか行きたいとこあるか?」
「あ。体育館のライブ、沙羅たちが行くみたいで。俺、佐野に頼まれて沙羅に聞くことあるんだ」
「午前中のは盛り上がったらしいぞ」
学祭のライブは、軽音部のバンド演奏と有志によるお笑いショーがメインだ。
数年前までは演劇部の発表もあったけど、今はなし。
あとは、ステージで特技を披露する個人やグループがいたりする。去年は、マジックショーがあった。
ライブっていえば軽音ってイメージだけど。軽音部がふるわない年に、教師たちがジャズ演奏した年もあったはず。
うちの学祭は客演なくて生徒数も少なめだから、生徒主催の学祭に教師が参加することもある。屋台は毎年だ。
焼きそば、うまかった!
「始まる前に行って、よさそうだったらちょっと見るか」
焼きそば2パックをたいらげた涼弥が、タコ焼きを口に放り込む。
「うん。お前は? 気になった出し物ないの?」
「……相性チェックメイズ」
「は? 相性? メイズって……迷路?」
チェック……誰がするんだ。
てか、そんなの信憑性ないじゃん?
てか! したいのか……涼弥が!?
「みたいなやつで、けっこう人気あるそうだ。別の入口から入って、同じ出口から出られれば相性度100パーセントになる。沙羅たちに聞いた」
あーさっき。うちのお化け屋敷んとこで話したのか。
「沙羅と樹生はどうだったって?」
「100。佐野たちは75」
沙羅と樹生が100パー……信頼度はどのくらいだ?
「お前、やってみたいんだよな?」
「ああ……せっかくだし……楽しそうだからよ」
ちょっと恥じらう感のある涼弥を見てると。
やっぱかわいい。
言うこと聞きたくなる風情にやられる。
もちろん、涼弥の行きたいとこは行きたい……カジノ以外は。
「いいよ。行こう。ただし!」
これだけは要確認。
「その相性ってやつ。悪くてもヘコむな。信じるな。星占いより適当だぞ」
間を置かず、涼弥が頷く。
「ただのお遊びだってのはわかってる。大丈夫だ」
「よし。あ……でも」
笑みを浮かべ。手元のタコ焼きをひとつ、割り箸で掴んで涼弥の口元へ。
アーンなんてベタな真似はせず。食べ物が近づいて反射的に開いた口の中に、程よく冷めたタコ焼きを押し込んだ。
「相性100パーセントだった時は信じような」
もぐもぐする涼弥の瞳が笑った。
ともだちにシェアしよう!