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52-3 中庭でランチ

 焼きそば3パックとタコ焼き2パックを手に、俺と涼弥は中庭に移動した。  昇降口の反対側。  第一校舎と第二校舎の間のこの場所は、屋台の出てる校門側と大体同じ広さで。時々学園の行事で使う以外はただの憩いの場だ。  四方にベンチが置かれ、いろいろ木も植わってて。女子部の前のナンパスペースの学園版ってところ。  タコ焼きの屋台で呼び込みをする津田に、涼弥を紹介した。  まだ木谷と話してないらしく、涼弥に向ける瞳が懐疑的だった……ので。 『ずっと友達で、お互いに好きだってわかるまで時間かかったけど……俺は今、幸せだ』  そう言った。  少し目を見開いて頷いた津田に、伝わってればいい。  俺が涼弥を好きなこと。  大切な友達が恋人になり得ること。  好きって気持ちは、外に出さなきゃ伝わらないこと。  これから直面するだろう木谷の告白を、せめて疑わずに……本気なんだって、ちゃんと向き合って聞いてほしいからさ。 「木谷のヤツ、津田はお前と同じタイプだって言ってたが……直に見てもどのへんが同じかわからねぇ」  空いてるベンチに腰を下ろし。焼きそばを食いながらの、涼弥のコメント。 「どっちかっていや、江藤に近いぞ」 「あーそれ、玲史も言ってた」  そうか。  津田に投票してくださいって頼んだ風紀の1年は、木谷か。 「お前も、津田に票入れたのか? 木谷に頼まれて」 「ああ。お前は?」 「加賀谷」  俺の投票先を聞き、微妙な顔をする涼弥。 「必要だろ。役員経験者」 「……あいつはゲイか?」  あ、そこなの。 「らしい、けど……だからって。もし、一緒に生徒会役員になっても……警戒するなよ」 「そうだな。何の噂も聞かないが、そうか……」  これ。玲史の情報じゃ、タチでサドだってこと……伏せといていいよね。  関係ないヤツの性癖、知らなくていいし。  加賀谷のプライバシーに関わるし。  ここだけの話、だったし。  涼弥がSMに興味持ったら嫌だし。 「加賀谷が会長になればいいよな」 「將悟(そうご)……」 「ん?」 「カジノのポスター見ただろ」  その話題に、眉を寄せた。 「うん。カンベンしてくれって思った。江藤のクラスで、会長自らの提案で。選挙に関心集めるためらしいけど」  大きく溜息をつく。 「終わってんのに。つーかさ。来年、よけい立候補者いなくなりそうじゃん? 極力目立ちたくないのに」  愚痴る俺に向ける涼弥の瞳はあたたかく。 「目立つのが好きなヤツもいるからな。そいつらのためだって思っとけ」 「ん……そうする」  微笑んだ涼弥が、少し申し訳なさげな顔をして。 「風紀の見回りで報告行った時、坂口が……お前の彼氏、一番人気だっつって。一度カジノに連れて来い、盛り上がるから……ってよ」  表情に合った内容を口にした。 「ぜっ……たい、行かない」  全力でノーだ! 「行きたいのか? カジノ」  険しい目で尋ねると。 「お前が嫌なとこには行かない」  望むセリフを言ってくれて安心する。 「サンキュ……まぁ、あの選挙のベットがなければおもしろそうだけどさ」 「カードゲームか」 「お前、ポーカー得意だもんな」 「褒美かバツゲームがありゃ、本気出すが……」  何かを賭けるの、好きっぽいよね。涼弥は。 「今日はいい。どこか行きたいとこあるか?」 「あ。体育館のライブ、沙羅たちが行くみたいで。俺、佐野に頼まれて沙羅に聞くことあるんだ」 「午前中のは盛り上がったらしいぞ」  学祭のライブは、軽音部のバンド演奏と有志によるお笑いショーがメインだ。  数年前までは演劇部の発表もあったけど、今はなし。  あとは、ステージで特技を披露する個人やグループがいたりする。去年は、マジックショーがあった。  ライブっていえば軽音ってイメージだけど。軽音部がふるわない年に、教師たちがジャズ演奏した年もあったはず。  うちの学祭は客演なくて生徒数も少なめだから、生徒主催の学祭に教師が参加することもある。屋台は毎年だ。  焼きそば、うまかった! 「始まる前に行って、よさそうだったらちょっと見るか」  焼きそば2パックをたいらげた涼弥が、タコ焼きを口に放り込む。 「うん。お前は? 気になった出し物ないの?」 「……相性チェックメイズ」 「は? 相性? メイズって……迷路?」  チェック……誰がするんだ。  てか、そんなの信憑性ないじゃん?  てか! したいのか……涼弥が!? 「みたいなやつで、けっこう人気あるそうだ。別の入口から入って、同じ出口から出られれば相性度100パーセントになる。沙羅たちに聞いた」  あーさっき。うちのお化け屋敷んとこで話したのか。 「沙羅と樹生はどうだったって?」 「100。佐野たちは75」  沙羅と樹生が100パー……信頼度はどのくらいだ? 「お前、やってみたいんだよな?」 「ああ……せっかくだし……楽しそうだからよ」  ちょっと恥じらう感のある涼弥を見てると。  やっぱかわいい。  言うこと聞きたくなる風情にやられる。  もちろん、涼弥の行きたいとこは行きたい……カジノ以外は。 「いいよ。行こう。ただし!」  これだけは要確認。 「その相性ってやつ。悪くてもヘコむな。信じるな。星占いより適当だぞ」  間を置かず、涼弥が頷く。 「ただのお遊びだってのはわかってる。大丈夫だ」 「よし。あ……でも」  笑みを浮かべ。手元のタコ焼きをひとつ、割り箸で掴んで涼弥の口元へ。  アーンなんてベタな真似はせず。食べ物が近づいて反射的に開いた口の中に、程よく冷めたタコ焼きを押し込んだ。 「相性100パーセントだった時は信じような」  もぐもぐする涼弥の瞳が笑った。

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