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52-8 二つの結果は

 その後。紫と黄色のルートが交わるところで、交通整理係として立つ水本に会った。  斉木と一緒にいる俺を見て。 「離れた隙に浮気とはやるねぇ。杉原が喜ぶな」  俺に憎まれ口を叩く水本に無言で笑み。 「コイツとのんびりしてていいのか? お前のツレ、とっくに通ったぞ」  斉木へのコメントに、涼弥は?って聞きたくなるも抑え。  仲のいい水本と会話を続ける斉木を残して、紫の矢印が示す2方向のうち左の道へと進んだ。  なんとなくずっと一緒に歩いてた斉木とも、ここでお別れ……と思ってたら。 「あと分岐2箇所で出口だってよ」  斉木が追いついてきた。 「遅いって言われっかな」 「……斉木さん。道、自分で選んでる?」  会ってからここまで、俺の行くほうに来てるとしか思えない。 「ひとりじゃつまんねぇからな」  やっぱり。 「女に声かけられるのも面倒だし。ま、ここにいるのは大体彼氏持ちか彼女持ちか」  追い越したり追い越されるほかの客はけっこういるけど、基本みんな周りの他人には無関心だ。 「女……も、平気なのか?」  敬語に戻したら、普通に喋れって言われて。  以後。遠慮もなくして、友達みたいに尋ねる俺。  この男、かなり話しやすい……気の合うタイプなのかもしれない。 「1回だけ。黒歴史だぜ。結都(ゆうと)も似たようなもんだった。お前は?」 「ひとり……つきあったけど、男のほうがいい……ってより、涼弥がいい」 「へぇ……」  斉木が感心したような顔をする。 「何」 「彼氏は幸せだ」 「俺もだから」  和やかに笑い、分かれ道で止まる。 「斉木さんはどっち行く?」 「次んとこまでついてくかな」  異を唱えてもムダな気がして、右の道へ。  ちょっと進むと、また分かれ道が見えてきた。 「3時まで……時間ギリギリだ」  時計を確認した斉木が言った。 「これで最後だな。お前どっち選ぶ? 俺は違うほう行くからよ」 「え……それじゃ、あんたの出口も俺が決めるみたいになるじゃん」 「かまわねぇって。結果はどうでも俺は。ずっと何も考えねぇでついて来てんのに」 「そうだけどさ」 「結都はともかく。お前の男はおもしろくねぇんじゃね? 俺と仲良く出てったら」 「あー……」  涼弥は気にするか……?  でも、斉木は結都とつき合ってるの知ってるし。 「あんま知らねぇけど、嫉妬深いヤツだっていうし。俺が先行ったらお前、決めにくいだろ」  時間ないってわりにイラつかず、俺のことに気を回す斉木。  ここはサクッと動くべし。 「ん……じゃあ……」  働け第六感……! 「右にする」 「オーケー。俺は左な」  別れに片手を上げ、斉木が歩き出し。 「あ。先に言っとくぜ。当選おめでとさん」 「ちょっ……」  抗議の言葉を口にする前に、斉木は左の道に消えた。  一応お礼とかも言いたかったんだけど……まぁ仕方ない。  よく考えたら、俺も時間ないじゃん。  3時の発表の時は人気のない場所にいたい……涼弥と一緒に。  よし。行くか。  右の道へ、早足で急いだ。  ものの十数秒後。  ほんとすぐに出口があった。  ドアはなく、二重のれんみたく細い布で先が見えなくなってる出口。  後ろから来た女子が、止まらずにのれんを抜けてく。  うーちょい緊張する……。  ただのお遊びって言ってたくせに。  結果はどうでも、何が変わるもんじゃなし。  のまれるような雰囲気でもないだろ。 『さあ、あなたと彼or彼女との相性はいかに!?』  出口の枠の上に、でっかくこう書かれててもだ。  深呼吸していざ。  のれんをくぐってメイズを出た。  正面7、8メートル前方にズラッとパイプイスが並んでる。そこが待合いスペースらしい。  右を見ると。今出てきたのと同様の出口がひとつ。  左には出口が2つ。  視線を前に戻す。  相方を待って座ってるのは10人くらい。そのうちのひとりの女が、左端の出口から出てきた男に駆け寄った。  涼弥は……。  いないじゃん……!  まだ中にいるのか。  てっきり先に出て待ちかまえてると思ってたけど。  まさか。道分かれるたび、すげー迷ってるんじゃ……?  何にせよ。  今は斉木の言ってたことがよくわかる。  これ。  先に出てたほうが、マジで気が楽だな。  アタリもハズレも、後のヤツにかかってるっていうか……丸投げだろ。  待合いスペースのイスに腰を下ろした。  出てすぐカジノに戻ったのか、斉木と結都の姿はない。知り合いもいない。  ここから見ると、俺が出たのは左から2番目。係に渡された、手のひらサイズの厚紙の札に書かれた数字は2だ。  涼弥はどこから出てくるのか。  もし、2の出口以外からだったら……。  いや。  俺はいいの。どこだとしても。  結果はほんとに気にしないからさ。  気にするのは、涼弥の機嫌ってか、気分ってか……心ってやつ。  俺が出た出口を感知出来なかったって落ち込むとか、あり得そうで!  いや、大丈夫。  笑い飛ばすんだった。  それか。  50パーなら、一周回って150って言えばいい。斉木に倣って。  あーもう!  もっと時間潰してくればよかった……って。  2時54分じゃん!  涼弥……早く来い!  願った直後。  涼弥が現れた……左から2番目の出口から。  Thank(サンク) God(ゴッド)……!  係から札を受け取った涼弥は、ほぼ正面にいる俺にすぐに気づいた。  見るからに不安げな涼弥を、1秒でも早く安心させたくて。  2の数字がよく見えるように札を掲げて前へと歩く。 「將悟(そうご)……」  手の届く距離にきた涼弥の顔には、満面の笑み。 「お遊びでも、俺たち相性100パーだな」  こう言える幸運に感謝! 「ああ、バッチリだ」  ガバッと抱きすくめられ。  ためらうことなく、涼弥の背に手を回した。  人目があっても、このくらいは許容範囲だよな。  周りを気にせず抱きしめ合ったのも、わずか10秒。 「もうすぐ3時……選挙結果の発表がある」 「行くぞ」  それで察した涼弥が頷いて、俺たちはホールのドアへと向かう。   途中の受付みたいなとこで札とリボンを回収され、相性証明書なるモノを受け取った。  紙に書かれた『相性度100パーセント』の文字を見て嬉しそうな涼弥……を見て、ホッとして口角が上がる。  何だかんだいって、俺も嬉しい。  ここまでは学祭、順調に楽しんでるな。 「こっちだ」  入ってきたのと少し離れたもう一方のドアからホールを出ると、第二校舎に続く廊下へと進む涼弥。 「どこ行くんだ?」  人気のないとこで発表聞くつもりでいたのに。うかつにも、どこにするか決めてなかった。 「非常口出たところだ。天文部の廊下の」  階段を駆け下りる。  3時を回ったらしく、校内放送のチャイムが流れ出した。 『蒼隼祭をお楽しみの皆様。本日はご来場、誠にありがとうございます』  1階に到着。  このへんでやってる出し物がないせいで閑散としてる天文部前の廊下に、アナウンスが響く。  非常口の内鍵を解き扉を開け、涼弥が俺を見る。 「お前が会長だったら……俺の褒美の願いゴト、お前にやる。だから元気だぜ」 「え……?」 『只今から、第39期生徒会役員の当選者を発表いたします』  俺たちが外に飛び出しドアを閉めるのと同時に、選挙結果の発表が始まった。 『会長……2年B組、早瀬將悟。副会長……』  自分の名前を一番先に呼ばれ。閉められた非常口のドアに背を預け、そのまま腰を落とし……目の前に来た涼弥を、ただただ見つめる俺。  あー……俺コイツのこと、すげー好きだなー。

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