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53-2 もうしません

 ここじゃダメだって、言うヒマはなく。  言ってもキスしてきたとして、突き放せる自信もなかったけど。  久しぶりの熱い感覚に、抗えるはずもなく。 「ん……はぁ……ッ……んっ……」  舌を絡め合う快感をほしがる自分を止められない。  口内のどこを舐められても、気持ちいい。  涼弥の唇も舌も歯も歯茎も喉も。届くとこ全部、舐めて俺のものにしたい。  唾液の音を立てながら、息荒く。キスに没頭する俺は、涼弥より先に理性を飛ばした。 「將悟(そうご)……んっ……もう……やめねぇと……っ……」  離れないように、キスを終わろうとする涼弥の胸元を掴んだ。 「まだ……はぁっ……も……すこし、いいだろ……もっと……続けて……」 「……けど、高畑が……」  そんなのどうでも……今はこうしてたい……もうちょっと……。  高畑……って玲史か!?  閉じてた目を開けた。 「玲史、が……?」 「……ここにいる」  涼弥が熱の残る瞳を右に向ける。  その視線を追う俺の目に映ったのは……。  超楽しげな、肉食獣の目つきで俺を見てる玲史と。その横で居心地悪そうに顔を赤らめる、体格のいい1年だ。  思ったより近い……!  2メートルもないだろ。  この距離で見られてた……のか!? 「来期の生徒会長がこんなとこでふしだらな行為に耽ってるって、どうなの? 風紀委員としては困るんだよね。示しがつかなくて」 「……すみません」  心にもなさげな正論をかざす玲史に……謝るしかないよね。 「恥ずかしくないの? 誰が見てるかもわからない公共の場で」  そりゃ、恥ずかしいよ?  だけども。  キミに言われたくないソレ。 「僕のはちゃんと暗がりだったでしょ。おひさまの下じゃなく」  顔に出てたのか、玲史がニヤリとして先回り。 「それに。將悟と(かい)だってわかってたから、わざとだし。ガチで盛ってないし」  紫道にあんな声出させてたくせに……ズルいぞ。 「でも。イイモノ見ちゃった。將悟、セックスの時も積極的にほしがるの?」  あーうー……もうしません。だから、もうヤメテ! 「高畑。將悟をいじめるな」  涼弥が立ち上がった。 「俺のせいだ。お前に見せる気はなかったが……」 「見られて興奮しちゃった? 今度一緒にどう? 燃えるよ」 「断る。仕事戻れ。俺たちも、もう行く」  素っ気なく拒否し、涼弥が俺の手を引いて立たせる。 「岡部、悪かった」 「……いえ、その……こっちも笛吹かずに近づいて、すみませんでした」  1年の岡部が、俺をチラリと見て視線を逸した。 「キミはいいの。せっかくだから見ときなって、僕が言ったんだからさ。エロかったよね。男同士もなかなかでしょ? 世界広げてみるといいよ」 「はい……じゃなくて、え……と……」  いたたまれない。  純情そうな1年に、鬼畜な先輩がホモをすすめる口実を与えて……申し訳ない。 「あ、そうだ。坂口さんたちのライブ、行くの?」  まだ顔の赤い岡部から涼弥に視線を移し、玲史が聞いた。 「行ってみる。そろそろ始まるだろ」 「これ終わったら僕も見ようかな。時間潰しに。あと4、5時間? 我慢出来る? 將悟」  人を淫乱みたいに……そりゃ今のは、早々に理性放棄したけどさ。 「……大丈夫。もう、人目のないとこいかないから」 「そうだね。今日は人目のあるとこで注目浴びるの楽しんで」  注目?  何で……あ……。  当選したんだった俺。  でもさ。  みんな、そこまで選挙なんかに興味ないはず。浴びるほどの注目要素は俺にないだろ。  にしても。  目立つの嫌いだって……知ってるくせに。  楽しんで……って! 「玲史。お前、自分が我慢出来ないんだろ」 「してるよ。なのに、將悟たちのフライング見せられたから。ちょっとくらい嫌味言ってもいいでしょ?」  それは、ほんと……悪かった。 「……ごめん」  半分本当、半分演技でしゅんとすると。気が済んだのか、玲史がやさしげに微笑んだ。 「ま、いいや。將悟が会長で紫道が風紀委員長……今夜はお祝い。夜が明けるまで延々とね。杉原もがんばるつもりでしょ?」  え……。  涼弥を見る。 「お祝いじゃないが……」  涼弥が俺を見やり。 「將悟を満足させるまでは……な」  そう言って、玲史と二人……黒い笑みを浮かべた。  嘘。  黒くない。  黒く見えた気がしただけ……うん。気のせいだ。 「じゃ、またね」  去り際はアッサリと。岡部を伴って、玲史が中庭側へと消えた。 「体育館行くか」  何事もなかったように言い、涼弥が非常口のドアを開ける。 「ライブ、順番はどうなってる?」 「最初にお笑い。そのあと、なんかパフォーマンスするヤツがいればそれやって。最後に軽音……のはず」  校舎に入り、渡り廊下へと向かう。 「坂口が出るのか? お笑い?」 「いや。バンドで歌うみたいだ」 「へぇ……去年は午後しかライブなかったから俺たち店番で見てないけど、出てたのかな」 「学祭は初だが、ライブハウスでやってて女に人気あるらしい」  坂口ってチャラい感じだったし、女ウケ十分しそうだ……てことは、ノンケか? 「藤村も、午後のライブ出るからよろしくっつってたな」 「え、あいつも? バンドで?」 「わからねぇが……ステージ立ってなんかやるっての、俺には無理だ」 「俺も無理。人に見られて演奏とかお笑いトークとか……」  そうだ! 「涼弥。さっき、玲史が見てるの気づいてたんなら……何ですぐやめなかったんだよ?」  俺が見られるのはダメっつってたじゃん? 「そりゃ……久しぶりだったしよ。お前が……夢中になってんのに、パッとやめらんねぇだろ」  笑顔で言いわけされ。  小さく溜息をつく。 「わかった。これからは気をつける」  渡り廊下には体育館に行く客がかなりいて、走ってる子も数人。  3時半からのライブはもう始まってるみたいだ。 「あといっこ」  忘れないうちに。 「今日、夜。少しは眠るぞ」  夜が明けるまで延々と……は、無理だ。  「帰れなくなるだろ」 「……もったいねぇな」  残念そうに、涼弥が呟いた。

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