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53-4 学祭ライブ

「冗談だ」 「ん。俺、お仕置きされるようなことしてないもんな」  口元をほころばせる涼弥と一緒に笑い。 「お前のお仕置きって何? 殴るのか?」  一応聞いた。  ケンカ慣れしてる人種のお仕置きって、肉体的苦痛を与える罰ってイメージがある。  今、涼弥の口からこの言葉が出たのは偶然……深音や沙羅の言うお仕置きとは違うはず。 「そりゃ制裁だろ」  あ、そうなの? 「泣くまで攻める……いや。泣いても攻める。容赦なく」 「は!?」  腐ってないくせに、何でソレ?  お仕置きってそういうモノだっけか?  あ……男女でもあるか。腐かどうかは関係なしに。 「浮気のお仕置きはソレが定番だって……沙羅がくれた本にあったぞ」  あー……よけいな知識を! 「涼弥。その本、ファンタジーだから。鵜呑みにするな。実践もするな。現実は別モノだ。つーか、浮気はしないからお仕置きもないだろ」  腑に落ちない顔をする涼弥に、強くハッキリと言い。 「まぁ、そうだが……」  涼弥が納得したっぽいところで。 「それはいいとしてさ」  話を変えよう。 「坂口のバンドって、午後のラストだよな?」 「ああ。3年のでシメってより、ライブの目玉らしい」  じゃあ、沙羅の相手が坂口って可能性もアリか……いや、だから何ってこともないんだけど。  あ。ギター弾いてる人って言ったな。坂口は歌うならボーカル……って、歌いながらギターも弾く人いるか。 「何かあるのか? あの女……深音(みお)と何話してたんだ?」  涼弥が気にするのはわかる。  簡単に。佐野に頼まれて海咲ちゃんのお目当てを聞いたことと、沙羅と樹生のことを説明した。沙羅が前に好きだった男を見にきてるのを、樹生が気にしてるみたいだ…とだけ。 「御坂が沙羅の浮気を心配ってのはおかしい。自分がやってることされても文句言えねぇだろ」 「それ。和沙と同じ意見だ」 「気になるなら、ここで見張ってりゃいい」  それも同じ。 「お前と和沙、わりと似てるよな」 「……そう見えるのか」 「え……ダメなの?」 「あいつの執着はちょっと病的だぞ」  和沙の執着ってのは、なんとなくしかわからないけど。  心配とか嫉妬とか……病的じゃないにしても同レベルに見える……けど。 「本気で好きなだけだろ。そのうち落ち着くよ。和沙もお前も、今はもう信じてくれてるじゃん?」 「ああ、信じてる。お前のことはな」  涼弥の瞳が心許なげに揺れる。 「信じらんねぇのは自分だ。どっか閉じ込めちまってよ、お前を誰にも見せたくねぇ……たまにマジでそうしたくなる」  ジッと見つめる。  涼弥を。その瞳を。その奥を。その思いを。 「いいよ。お前も一緒に閉じこもってひとりで出てかないなら。で、腹が減ったら一緒に外出る。それならオーケーだ」  短い間があって。 「いつか閉じこもるか。食料買い込んでな」  涼弥が笑った。  話が一段落ついてステージに目をやると、全然聞いてなかったお笑いはすでに2組目が終わってて。  次は1年2人組のパフォーマンスで、ジャグリングだった。  大道芸ってジャンルになるのか。モールの広場とかで見たことあるやつ。  ボーリングのピンみたいなのを二人それぞれが空中で回したり、お互いにパスしたり……よくこんなの出来るなって。息が合ってて、バッチリ。  あと。なんかティッシュの箱くらいの四角い物体3コ持って、真ん中の上に放って左右のでキャッチする……のを、二人同じタイミングで披露した。  これもタイミングバッチリで、徐々にスピードも上げて。  終わった時は大歓声だった。  そして、軽音のライブ。  ビックリしたのが、次は軽音部の演奏ですってアナウンス入った途端。ステージ前のスペースにわらわら人が集まってったこと。  あの空きは、このためだったのか。  バンド演奏って立って聴くモノ?  でも、そうか。  プロのコンサートとかも、みんな立ってるもんな。  ひと組目はボーカル、ギター、ベース、ドラムの4人で全員2年生のバンドだ。C組3人と、ドラムはE組のヤツだったか。  で、4人とも。  女子高生の格好してるよ……!?  なんかのコスプレなのか?  何故わざわざ女装?  ボーカルは長めの地毛立ててるだけだけど……藤村のヤツ、金髪のカツラまでつけてるし。  客席から動かず。呆気にとられてるうちに、演奏が始まった。  音楽には詳しくないけど、知ってる曲だ。アニメかなんかの。前で立ち見の客のノリもよく、歌もいい。  藤村のギターもうまい。意外だ。チャラチャラしたゲイって認識しかなかったからさ。  3曲。あっという間にやり終え。  ボーカルが挨拶し、マイクをギターに渡した。 「藤村です。今日、生徒会役員になりました。ありがとうございます」  お辞儀する藤村に、拍手が起こる。  ここで言うの……嬉しいのか。  まぁ、よかった。やる気あるヤツの当選は正義だ。 「当選したらしようと思ってたことあって。今からします。応援してください」 「がんばれよ!」 「お前なら出来るぞ!」 「しっかりー!」  これにも、客の多くが声を上げて応える。  人好きする藤村に、俺も応援気分になってきた。  ギターをアンプに立てかけ、無造作にカツラを外し投げ。藤村がベースの男に近づいてく。 「東條に何するつもりだ……」  隣で涼弥が呟いた。  そうだ。あれ、東條だ。  1年の時、涼弥に街でよく会うって聞いたことある。  少しマッチョでマジメそうな東條の前で足を止め。 「好きだ。つき合ってくれ」  マイク越しに、藤村が告白した。  示し合わせたようにシンとする中。  観客の注目を一身に浴びる中。  戸惑って周りに助けを求めるふうに周りをキョロキョロ目を泳がせたあと。うつむき加減で、東條が頷いた。  女のコたちの甲高い歓声の中。  男の冷やかしが飛ぶ中。  藤村が。  東條の顔を覗き込むようにして首を掴み……キスした。  倍になった歓声の中。  拍手とあたたかいヤジの中。  ホイッスルが鳴り響く。  舞台袖から現れたのは、風紀委員の坂口で。  東條を放した藤村に手を差し出し、マイクを受け取った。 「学内でソレ、禁止だよー。退場!」  楽しげに坂口が言うと。続いて出てきた委員らしき4人が、バンドメンバーを捕まえ連行してく。  入れ替わりに、3年生3人が静かにステージへ。  ミントグリーンの制服のワイシャツをちょっと着崩してアクセサリーをつけてるくらいで、特別な衣装は着てない。  なのに……なんかカッコイイ。  ブレザーを脱いでネクタイを外した坂口が、ステージの中央に立った。 「今日は蒼隼の学祭、来てくれてありがとー。あとちょっと、楽しんでってねー!」 「ギター持ってるのって……」 「瓜生(くりゅう)だ」  涼弥が言った直後。 「將悟(そうご)。沙羅は?」  後ろから息を切らした声がして。振り向くと、ゾンビ姿の樹生がいた。

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