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★55-4 大丈夫だ、俺が抱いてる
「んっ、あっ……待て……これ外せ!」
耳の裏から首、鎖骨と舌を這わせる涼弥に。半分困惑、半分恐怖で言った。
俺の嫌な記憶を消したいって、バックでやって。焦らしてイカせて、自分もイッて。
その直後、突然。悲痛な顔でキスして……わけがわからない。
キスの最中に俺の手首に何かつけて、縛りつけた……って。
ヒモでも縄でもない。キツくも緩くもない。
でも、自分じゃ抜けない外せない。
枷か? 鎖つきの? ベッドヘッドにつけるとこあったか?
とにかく、俺の両手は動かせない。
拘束されてる……手の自由がない……あの時みたい、に……。
怖い……ってのは、ある。
目の前にいるのは涼弥でも。こうされてること自体が、恐怖心を掻き立てる。
俺の心の隅に、普段は気づかれずに巣食う……情けない、トラウマ。
それ、わかってるはずの涼弥が……何でこんな真似する!?
今にも。
冗談だ、悪い。
そう言って。涼弥が笑って枷を解く、僅かな可能性は……。
「外さねぇ。このままやる」
キッパリとした口調と俺を見つめる瞳が、本気だ。フザケてるんじゃない。
「外せ。こういうプレイがしたいなら先に言えよ。勝手に始めるな」
わざと強がった。
そうでもしてないと……ジリジリ増長してく恐怖に負けちまう。
「縛らなくても逃げないだろ。お前のしたいこと出来るだけするし。それに……忘れたか? これは俺……」
「トラウマ……俺が平気にしてやるって言ったよな」
「え……?」
「縛られてレイプされそうになった恐怖、これも俺が消す。俺にしか出来ねぇ」
「涼弥……」
「ずっと迷ってたが……今の、バックでやって決めた。このまま抱くぞ」
見つめ合う。
3秒……10秒……。
「お前が怖くなくなるまで……すっかり俺の記憶だけになるまでだ。身体も頭もとろとろの時のが、ちょっとは楽だろ。今しかねぇ」
「……俺の意思はなし、か……?」
静かに言う。
すでに指先にしびれを感じるけど、声は震えてない。
今日……涼弥はこれ、頭にあって。
だから……。
ここ入る前、やめろって言ってもやったらレイプか……とか。
マジでやめろっていうことあるか、とか。
あー、メイズで。手首にリボン、縛ってくれって言った時の過剰反応も。
俺の中にいるのに、不安げに見えた……のも。
「『杉原』だ、將悟 。言えば……外す」
マジのノーの合図。
また、俺に選ばすの?
ズルいよ……いや。
これは俺が決めないと。
強行してトラウマがひどくなったら、涼弥は自分を責めるだろ。
だから、俺が……違う。そうじゃない。
涼弥が、こうするって決めた。
俺が出来るのは拒否だけ。
マジのノー……言うなら今しかないか?
でも、言ったら涼弥……傷つくか?
でも、縛られたまま……やられるのは……。
あーもう!
バカか俺。
頭とけてんのに小難しく考えるな。
こんなん、ロジックじゃないだろ。
「涼弥」
名前を呼んだ。
微笑んだつもりだけど、たぶん微妙。
「俺……縛られてんのは、怖い。身体が勝手に思い出して……指がしびれる」
涼弥の眉間に深い皺が寄る。
「でも、お前がほしい……ずっと熱くて……今もほしがってる、から……」
涼弥の顔を撫でたい……のに。
括られた手は、頭上で左右に少し動くだけ。
「マジで嫌なら、ちゃんと言うから……そんな顔、すんな」
「將悟……」
「これ、どうでもいいくらい、気持ちよくしてくれるんだろ?」
手首を揺すって、鎖を鳴らす。
指先がピリピリしてる。
怖い……って思うのはきっと、身体がそう認識しちゃってるせいだ。
これを怖がってるのは俺の身体。
身体がインプットしなおせば、トラウマは消えるはず。
コレは気持ちいいことだ……縛られて、涼弥に抱かれるのは、気持ちいいことだ……って。
「ああ……もちろんだ」
涼弥の険しい表情が緩んだ。
広げた脚を上げられ、アナルの口にペニスがあてがわれる。
「ッ……あ、くッ……んッ……」
ついさっきまでここに入ってたから、挿れるのは楽だろうって思ってた。
何度も快感に震えたアナルは、中も入口も精液でドロドロだ。
なのに、すんなり入らない。
俺の身体がガチガチに強張って、括約筋に力入りまくってるから。
「ごめん、力抜けなくて……」
弱音を吐く俺に、涼弥が微笑んだ。
「いい。お前は無理するな……いくぞ」
「んッ、うッ……つッ……ッ! あッ……」
固くなってるアナルの口を抉じ開けて、ズブリとペニスが押し挿れられた。
ほしかった快感にゾクゾクする。
気持ちっていうか心も、これを求めてる。涼弥と一緒に快楽に溺れたいって望んでる。
それでも。
拘束された手首から、恐怖がジワジワと這ってくる。
しびれた指は、無意識に枷を外そうともがいて。さらにしびれてく。
「大丈夫だ……俺が抱いてる」
「あッ、あ……りょう、や……まって……ふ……あッ、やっ……」
快感と恐怖のアンバランスな状態に、身体が震える。
縛られてたって、気持ちいいとこは気持ちいいのに。
怖いってのがバグになって……快感をおかしな波長でキャッチしてるみたいな感じで。
「ッ……ん、そこ、あ、あッ もっと……」
前立腺を突くようにペニスを往復させる涼弥にねだり。
その直後、ゾワッとうなじの毛が逆立ち、首を振る。
「あッ……やッ、やっぱ、やめ……こわッ……あ、いや、だ……!」
思いもよらず必死な声が出た。
動きを止めた涼弥と目を合わせて息をつく。
気持ちいいのに怖い……何でだよ?
ちょっと手が動かせないだけじゃん?
脳内で自分に言い聞かせる。
こんなんじゃダメだ。
怖いなんて錯覚だ。
しょうもない記憶の残骸だ。
そんなの忘れろ。
だって、気持ちいいだろ?
涼弥が上書きしてくれてる……けど。
このまま……縛られたままイケるまで……涼弥は続けてくれるか……?
マジのノー……『杉原』とは言わなくても、嫌だとかやめろは口走る。
俺のトラウマ消すのに、涼弥につらい思いさせるのは……。
「將悟。やめてほしけりゃ、杉原って言え」
俺を見つめる涼弥の瞳はやさしい。やさしくて強い瞳だ。
「ひ、あッ……! ん、あッあ……は……あ……ッ!」
いいとこをゴリッと攻められて。怖さと気持ちよさがないまぜになった感覚で、全身がブルブルする。
でも、もう不安はない。
恐怖が全部なくなって、快感だけになるまでやめない。そうしてくれる好きな男に抱かれてる。
だから……大丈夫だ。
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