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第3話 ブラックホール
う……
す、吸い込まれる。
そんな瞳で俺を見るなって。
「だ、ダメじゃねーけど……」
「ン……じゃ行く」
ン……じゃねぇーーぞ!くそ!
薫のバーカ!!
吸い込まれそうな黒い瞳を密かにブラックホールと呼び、昔からこの眼差しに弱かった。
薫と俺は幼稚園からの幼なじみだ。
同じマンションに住み、幼稚園、小学校、中学高校とずっと一緒に育ってきた。
薫のことは全部知っていると自負できる。
ギュ
……
「……おい、シャツ掴むなって」
「ン?あ……あぁ」
何度も掴むなって言ってるのに、薫は俺の腰辺りのワイシャツをいつも掴んでくる。
しかも指摘しても離さないっつー。
そんなところが……
くっそ……
可愛い……
くっそーマジ可愛い……
あー控えめに言っても可愛い〜〜!
さすが薫だ!
ったく……近いったらありゃしない!
どうしてこいつはいつもこんなに接近してくるんだ!
ってまぁこれが俺と薫の幼なじみの距離感なのは知っている。
だーけーどーーーー!!
あーったく!ドキドキするんだって。
匂い……ヤバいし……
……そう。
俺、間宮哲嗣はこの無愛想でリアクション薄〜な幼なじみの塩崎薫に何故かどっぷり惚れていた。
いつから惚れていたのかわからないけど、小学校高学年と中学の頃は、薫中心に生きていた。
マイペースで大人しい薫は、クラスでは目立たない地味なタイプだ。
クラスメイトとも積極的に話すタイプではないし、ぼーっとしてるからポツンと孤立しやすい。
それに反して俺は人見知りもなく誰とでも気軽に話せるし、楽しいこと大好きだから友達も多かった。
だけど友達が多い割りにいつも一緒にいたのは薫だ。
親同士仲がいいって言うのもあったけど、ボーっとしている薫が同い年なのに危なっかしくて、どこか俺が見てないとって使命感があった。
薫も懐いてきたし、面倒みて遊んで飯食って風呂も入ったし泊まりも普通にしてた。
だから俺の隣には薫がいつもいて……俺もそれが当たり前だと思っていた。
……
「あ、ジュース買いたい……」
下校中歩いてる俺の腕にスルりと手を回し、自販機の前で立ち止まる。
普通引き止めるのに、腕に手を回すか?って思わずにはいられない。
例えば薫が俺の彼女であるならこれは成立するだろう。
だけど俺も薫も野郎だし、薫は俺に恋愛感情はないはず。
そう……そんな感情あいつにはないんだ。
俺は薫が好きだ。
友達ではなく恋愛対象としての好きだ。
だけど、これは言えない俺だけの秘密。
男が男を好きだとか絶対気持ち悪いだろ。
薫にキモがられてこの関係が崩れたらたぶん俺生きていけない。
ひったすら泣くわ。
俺は女の子好きのモテ男子で、薫はその幼なじみ。
これがベストな関係。
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