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第2話

「ごめんね、待った?」 「おう、待ったわ。なっちゃん」  今日の放課後、夏生は女子に呼び出された。なんと一組の美少女、前野にだ。  クリスマスを目前にしたこの時期、やはりみんな彼氏彼女が欲しくなるみたいであちらこちらでカップル成立しまくっている。 「そんでおま、付き合うの?」 「へ?」 「前野とだよ。告白されたんだろ」  いいな、イケメンはよ……。俺はうらやましさを隠さず、じっとりと夏生を見た。  ところがだ。目の前のイケメンは「付き合わねぇよ」と、なぜかはにかんだ。 「は!? なして!? 前野めっちゃ、めっちゃ、めっちゃくちゃ可愛いじゃん!」  千年にひとりとまではいかなくても、まあ……俺らの学年では一年にひとりかふたりくらいの美少女前野だぞ。そんな前野にコクられて、まさかふるやつがいようとは。しかも恋人達のクリスマスを前にして。 「なんでって……。だってゆづ……、ああいう子、タイプじゃないよね?」  なぜか夏生は俺の好みを気にしている。タイプかどうかと聞かれれば、確かに俺は前野のような目立つ女子はタイプじゃない。じゃないけど、それなんか関係ある?  タイプといえば夏生の歴代彼女達は、清潔感があり、明るく、優しく、決して派手ではないけど可愛かった。  まさに俺の好みにドンピシャだ。思い返すとどんどんむなしくなってくる。俺の好きなタイプの子は、みんなそろって夏生のことを好きになるっていうことだ。 「ていうかちょっと店よるから」  地元の駅前商店街を抜けると、商店街の端っこに夏生の両親が経営する美容院があるのだ。学生街なので近くの大学の学生に評判がよく、たまに美容系の雑誌で紹介されることもあったりで、デザイナーの指名予約がとれるのが一ヶ月以上先になったりすることもある。  余談だが、うちの母親も夏生んちの店に通ってカットしてもらっている。俺と夏生の母親同士が、俺たちと同じく幼なじみなのだ。 「こんにちは。母さんいますか?」  店のドアを開け、レジ作業中のアシスタントさんに夏生が声をかける。 「夏生くん柚月くんおかえり。いつもなかよしだねえ」  アシスタントのお姉さんはニコニコ笑顔を振りまいて、夏生の母ちゃんを呼びに奥へ消えた。しばらくして、やっぱりまだギリギリお姉さんでいける夏生の母親がでてきた。 「ごめんごめん! 柚月今夜泊まるんでしょ? 晩御飯は用意してあるんだけど、おやつとか飲み物買う暇がなくって。悪いけど弟達のぶんも買って帰ってくれるかな」  今日も店は忙しいらしく、夏生の母ちゃんは有無を言わさず夏生に札を握らせた。  夏生には弟がいる。秋穂(あきほ)、冬聖(とうせい)、春太(はるた)の三人だ。  なにがすごいって、全員年子なのだ。おばちゃんがいうには、一気に子育てを済ませたかったから。しかし四人連続となると、そうとうの気合いを感じる。  ちなみにうちにも五歳上の兄と三歳上の姉がいる。うちの母親が二十歳で生んだのが兄ちゃんだ。  てか母ちゃん子供産むの早くね?確認したことはないけど、もしかしたらデキ婚なのかもしれない。  おつかいを頼まれた俺たちは、少し先のコンビニによって帰ることにした。 「柚月アイス買う? こたつでぬくぬくして食う?」 「食う食う!」  寒い冬にあったか~い部屋で食うアイスって、夏に食べるのよりもうまい気がするのは俺だけだろうか。  今日は夏生んちにお泊まりなので、俺も母ちゃんからこづかいをもらっていた。俺は飲み物と菓子類を手土産に買っていくことにした。  なんだかんだ買い物をすませると、レジ袋を両手にぶら下げた男子二人組。商店街を右手に行けば俺の小学校の学区、左手に行けば夏生の学区だ。  夏生んちは店から徒歩五分ほどの住宅街にある。この時間なら、中学生で受験生の冬聖はすでに帰っているかもしれない。

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