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第8話

 冬の夕暮れは早く、地元の駅に着く頃にはクリスマスの電飾がキラキラと、まぶしく煌めく時刻になっていた。  俺達は予約してあるチキンを受け取るために、二手にわかれることにした。  俺はチェーンのフライドチキン店、夏生は肉屋での受け取りを担当する。商品を受け取ったら、 美容院の前で待ち合わせる。  フライドチキンの店は混んでいたものの、予約受け取りカウンターが特別に設置されていて、俺はすんなり商品を受け取ることができた。フライドチキンの美味しそうな匂いに食欲を刺激されなが、俺は美容院の前で夏生を待った。  しばらく待っていると、両手に肉屋の袋をいくつもぶら下げた夏生がやってきた。 「ごめん。すごく並んでて」  夏生は俺にひと言謝ると、 美容院のドアを開けた。 夏生の両親におつかいを頼まれていた、スタッフへの差し入れを届けるためだ。  美容院はクリスマスも通常営業している。頑張って働くスタッフに、毎年クリスマス限定のチキンサンドを差し入れするのが恒例になっているのだ。  俺は店の外で夏生を待つ。店内では、差し入れを持つ夏生を笑顔のスタッフ達が囲んでいる。その光景を眺めているだけでも、クリスマスムードが俺の中で高まっていく。 「ケーキはどこで買う?」  店を出るなり夏生にたずねられ、俺はムムムと悩んでしまう。  商店街のケーキ屋、カフェ、パン屋。今夜は幾つもの店が店頭販売を行っている。目についたものを買えばいいや、と特に予約などはしていない。 「ケ~キ~! ケーキ、買ってくださ~い!  そこのイケメンお二人! 俺を哀れに思うなら、うちでケーキ買ってくれ~!」   二軒先のコンビニの店頭から、クリスマスには似つかわしくない悲惨さを滲ませた声がきこえた。 「しゅう……」  寒空の下、にわかサンタの恰好をした修平が、捨てられた子犬のような目でこちらを見ている。 「ケーキ買ってけ~。買ってけ~。買ってけ~」  まるで『妖怪かってけぼり』だ。俺達は仕方なく、しゅうの元へと近寄った。 「しゅう、バイト?」 「見たらわかるだろ……! みんな、デートやら飲み会やらで人手不足なんだよ! それよりケーキ買ってけや」  今夜はケーキ屋もパン屋もカフェも営業時間を延長して、会社帰りの購入客を待ち受けている。そんな夜に、わざわざコンビニでクリスマスケーキを買う客は少ないのだろう。 「……なんだか、かわいそうだな……」 「どうする、ゆづ? 俺は別にコンビニケーキでもいいけど……」  二人の間に微妙な空気が漂った。  コンビニのケーキか……。  最近は、コンビニ各社スイーツに力を入れているとはよくきくが、しかしそれよりも魅力的なケーキが商店街に売っている。そもそもコンビニでホールケーキを買う選択肢が、俺の中になかった。  だがしかし、俺たちの友達がこんな寒空のもと、マッチ売りの少女のようにケーキ売りをしていることが不憫でならない。俺の中で、スペシャルなケーキよりも、友への憐れみの気持ちが勝った。 「しゃあねえな……! じゃあ、その白いのひとつくださいな!」  俺は、どノーマルな苺の生クリームケーキを指さした。 「あざっす! まじ神!! 俺、これ売れねぇと今日上がれないんだよ~!」 「かわいそうなしゅう……。じゃあ……うちの弟たちも食べるから、チョコのやつと、このブッシュドノエルも一個ずつ買うよ」  夏生も憐れみの表情で、ふところから財布を取り出した。 「夏生~~~~! 俺、今ならおまえに抱かれてもいいわ! まじでありがとな~~!!」  うんうん、と俺らは友達を憐れんだ。  しゅうよ、早く全てのケーキが売り切れることを願う。この聖夜の星空にな……。

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