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第9話

 結局俺達は、ものすごい大荷物で夏生の家へと帰ることとなった。  リビングに入るなり、とりあえずケーキをどうにかすることにした。さすが男ばかりの四人兄弟の家とあって、やたらとでかい冷蔵庫へケーキの箱をしまい込む。 「柚月、あったかいうちにチキン食べちゃう?」  夏生がテーブルの上にチキンの袋を並べていく。しかし、半端に食べたカフェのクッキーが呼び水となり、俺の脳はさらに甘いものを欲していた。 「先にケーキ食べたいかも」 「白?」 「白」  俺はスタンダードな苺ショートが好きなのだ。さすが幼なじみだけあって、夏生は俺の好みをおさえている。  夏生はケーキを切り分けると、リビングのこたつへと運んできた。  二人分のケーキが乗っているのは、一枚の皿。それを各々フォークでつついて食べる。 「苺、あげるね」  たっぷりとクリームをつけた苺を、夏生がフォークにさして差し出した。俺はそれをひとくちで頬ばった。 「コンビニのケーキも、まあまあイケるな」  酸っぱい苺に甘いクリーム。至福だ。  テレビでは、クリスマスのバラエティ特番が放送されている。俺はケーキを食べながら、いつの間にか夢中で見ていた。 「柚月、クリームついてる」  え、どこに?  きき返す間もなく、夏生の唇が俺の唇をかすめた。あまりにも一瞬のことで、俺の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされる。 「柚月。クリスマスプレゼント、渡しておくね」  何事もなかったかのように、夏生は包装されたプレゼントを差し出した。 「ネックウォーマー、黒だったよね」 「あ……? ああ、うん」  俺は首を傾げつつも、プレゼントの包装を開けた。夏生があんまりにも普通すぎて、さっきのことが夢だったのかも、と思い始める。  夏生からのプレゼントは、スポーツ用品メーカーの黒いネックウォーマーだ。 「ありがとう夏生! 大事に使うよ」  俺もかばんを漁り、夏生へのプレゼントを差し出した。 「今年はすんごく悩んだんだけど……、きっと夏生に似合うと思うんだ」  美容院でモノトーンに身を包んだ夏生を見た時、夏生には黒が似合うと思った。すごく大人っぽく見えたんだ。 「マフラー……? 違うな、黒のストールだ! このタグ、あそこのショップのじゃん。柚月、これ、高かったんじゃない……?」  夏生はちょっとだけ心配そうな顔をしたが、鼻先をストールに埋めて微笑んだ。 「夏生って背が高くてすらっとしてるじゃん? だから、そういう大人っぽいのも似合うかと思ったんだ。店員さんがマフラーみたいに巻いてて、すごく格好良く見えたから」 「そっか。こうかな」  夏生はストールを首に巻いた。 「似合ってる! すごく格好いいよ!」  口元はストールで隠していても、たれ目がへにょへにょに笑っている。夏生のこういう顔は、すごく嬉しい時で、ものすごく照れている時だ。そういう顔を見れて、俺はとても嬉しくなった。 「もうひとつ、柚月にプレゼントがあるんだ」  夏生から、とてもきれいなラッピングがされた細長い箱を手渡された。 「開けて?」 「うん」  宝箱みたいな包装紙をそっとはがし、俺はそっと箱を開けた。 「これ……、俺にくれるの?」 「うん、お揃いなんだ」  箱の中身は、昼間見たシルバーのネックレスだった。 「ゆづはシルバー、俺はゴールド。ゆづ、つけてもらってもいい?」  夏生はゴールドのネックレスを俺に手渡し、背中を向けた。俺はそれを夏生の首にかけ、留め金をはめる。 「ありがとう。柚月にもつけてあげるね」 「うん」  夏生は向かい合わせのまま、俺のうなじに手をまわし、器用にネックレスをつけた。 「やっぱり……! 柚月にはシルバーが似合うと思った」  驚くほどの近い距離で、夏生は囁くようにほめた。お互いの息がかかるほど、顔が近づいてくる。 「柚月……、キスしてもいい?」 「……どうだろ」  キスってなんだっけ。男同士でしてもいいんだっけ。  しかし俺の返事なんかお構いなしに、夏生の唇が触れた。そしてぎゅっと抱きしめられる。

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