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第2話
そもそもの始まり、東と出会ったのは、ベタというのかマンガ的というのか、いつも乗る電車の中でだった。
毎日の満員電車にうんざりしつつも、一本二本早い電車に変えたところで混み具合は変わらないし、そのために早起きするのもイヤだし、と諦めていた電車で、あいつを見つけたんだ。
別に劇的な出会いだった訳じゃない。それこそ突然現れたわけでもなく、ずっと同じ電車だったんだろうけど、俺が見つけたのがその時だったってだけ。
俺好みの綺麗な顔、すらっとした体によく似合うスーツ姿のせいでまるでモデルみたいな奴だけど、手にしたスマホで熱中してたのはたぶんゲーム。
立ってるだけならスーツのモデルの撮影中という感じなのにゲームに必死な姿はまるっきり子供で、そのギャップに目を奪われた。
それからは、満員電車が苦じゃなくなった。我ながら単純ではあるけれど、毎日の楽しみができて朝の目覚めまで良くなった。
基本的に立ち位置が決まっているそいつを見つけるのは簡単なことで、そいつを見ているだけであっと言う間に時間が過ぎた。
人に押されてそいつとぶつかってしまった時に、一言だけ言葉のやりとりをした日なんか、周りに言われるほどのにやつき具合で一日中ご機嫌でいられるほどの浮かれっぷり。
そんな風にして、片思い未満の何気ない日々を続けていたある日、居酒屋で偶然にそいつと会ったんだ。
奇跡とか運命とか、そんな言葉で言ってしまうと安っぽく響くかもしれないけど、俺はチャンスだと思った。
いつまでも見つめてるだけのストーカーみたいな真似は俺らしくもないし、だったらさっさと知り合おうと思って。
そうやって声をかけたそいつは、思っていた以上の親しみやすさで、俺たちはあっと言う間に打ち解けた。
話せば話すほど俺たちは正反対で、たとえば同じ高校だったとしても友達にはならなかっただろうタイプだったけど、その正反対具合が逆に噛み合って、いつの間にか、いやあっという間に昔からの知り合いのような間柄になった。
友達、というのとは少し違う距離でお互いの家に泊まりあったり、頻繁ではないけれど一緒に出かけたり、そんなことをしている間に俺は自分の気持ちを自覚し、さほど時間もかけずに告白をした。
好きだとストレートに告った俺に対して、東は「俺も好きだよー」なんて笑って返してきたから、絶対わかってねーだろと押し倒した、のが確か俺ん家のソファーの上。
こういう意味だぞ、と睨みつけるように告げれば、東は本当にわかっていなかったのか一瞬きょとんとした後に、「マジかよー」なんて笑われて、その上で「俺男にマジで告られたの初めて」なんてなぜか嬉しそうに笑ってそのままキスをした。
男との、そして想い人とのファーストキスは痺れるほど良くて、それなりにあったはずの恋愛経験も思い出も、全部吹っ飛んで一番に上り詰めた。それぐらい俺たちは相性が良かった。
……それからまあ、初めて体を繋げた時もお互い色々苦労はあったし、同僚に危うくバレそうになったこともあったし、と語っていると長くなるからそういう思い出話はひとまず置いといて。
ともかく一人暮らしをするより広い部屋に住めるからとか、満員電車を回避するためだとか、周りには色々理由をつけて東とのルームシェアという名の同棲を始めて、良かったことと悪かったことの両面を持った一つのことがある。
ぶっちゃけた話、エッチのことだ。セックス、性生活、夜の事情、呼び方はなんでもいいけどつまりソレ。
外ではもちろん俺たちの仲は秘密だけど、家の中では結構べたべたしているし、東は爽やかな見た目とは違って気持ちいいことが好きだから自分から求めることも少なくない。だからいつでも求めた時に応じられるっていう点は、一緒に住んで本当に良かったことだと思う。
だけどルームシェアという名目上、というか東が体面を気にして寝室は別、なんだ。それぞれ一人暮らししてた時のシングルサイズのベッドを持ち込んだから、正直なところ色々するのにはだいぶ狭い。特にお互い身長が平均以上の男同士ということで、くんずほぐれつというわけには到底いかない。
だから最初からある程度激しめでいくとわかってる時は俺の部屋にソファーとして置いてあるマットを敷いてするんだけど、東はそれが恥ずかしいと微妙に嫌がる。……まあ、そこを使うということは、広い場所をわざわざ用意するほど色々しますよという宣言なわけだから、恥ずかしく思うのもわかるけど。
本来ならどちらかの部屋を寝室として使って一緒に寝たいという話を同居する前にしたんだけど、色よい返事はもらえなかった。
でもまあ、そういう不満は些細なもので、俺としては特に問題なく毎日を過ごせていたと思っていたんだけど。
まさかの誕生日に、家を追い出されて一人で過ごす羽目になるとは……俺がなにかミスをしたんだろうか?
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