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第14話「それぞれの想い」
「ん?なんか言った?」
康臣がぼそりと何か言った気がしてそう聞いた。
少し風があって、よく聞こえなかった。
「う、ううん。なんでもない」
康臣はそう言って、少し俯く。
目に光るものが見えた気がしたが、口調はいつもの通りだったから気のせいかと思い直す。
それより、康臣が景色を喜んでくれたことに嬉しくなる。ここに連れて来ることは昨日、映画を観ていて思いついた。
ここは車やバイク好きには、ちょっとしたツーリングやドライブによく利用される夜景スポットだ。俺も好きでたまに一人で来る
街からそう遠くないし、週末辺りだったらカップルが連なっていることも多い。
幸い今日は平日だからか人はいなくて静かだ。
今日は来て良かった。幸いにも晴れたし景色も綺麗に見えたし。
康臣の嬉しそうに笑った顔が夜景の光に照らされて、やけに綺麗で目に焼きつく。
それだけで少しドキドキとしたが、何故かはよくわからなかった。
「なんか、昨日から何だかんだ迷惑かけてるからお詫びになるかなって思って……」
景色を見ながら、今日連れてきた理由を話す。
おととい我慢出来ず、仕事中にトイレで襲ってしまった。しかも、昨日はしないと言っていたのに結局なし崩しでさせてもらった。
流石にかなり迷惑をかけた自覚はある、だからここに連れて来たのもあるのだ。
そう言うと康臣は「なるほど。うん、ありがとう……」とまた嬉しそうに笑った。
しばらく夜景を眺めていると、俺たちのように夜景を見に来たであろう人がポツポツと集まり始めたので「そろそろ、帰ろうか」と言った。
明日からまた仕事だ。昨日から今日にかけて久しぶりに康臣とのんびり休日を過ごせたから、いいリフレッシュにはなった、しばらくは多少忙しいだろうが何とか乗り越えられそうだ。
「あ……」
バイクに戻り、ヘルメットを被ろうとしたところで、康臣が何かに気がついて声を漏らした。
なんだろうと俺も目線を移しそれを見る。
「あ……」
目線の先にあったのは、薄暗い山には似つかわしくない少し派手な建物だった。
キラキラとライティングされていて、見るからにいかがわしい装飾がされている。
所謂ラブホテル、大人の休憩所だ。
この場所はよくカップルが来る、だからそれ目的で男が連れてきていい雰囲気になったところで行こうと誘うのだ。お金のないカップルがよく利用している。
こんなところにあるのに維持出来ているのだから、結構使っている人は多いのだろう。
俺は使ったことはないが存在事態は知っていた。
ふと振り向くと康臣と目が合った。康臣は少し頬を赤らめてすぐに俯いてしまった、それを見て俺は慌てる。
「ち、違うぞ。これが目的で連れてきたわけじゃないから。ほ、本当にお詫びのつもりだったんだ!」
そう言ってみたが、我ながら説得力がないなと思う。昨日からの行いを見れば明白だ。
正直言うとさっきバイクでずっと密着していたから、少しムラムラしていたりする。
しかし、流石にここでラブホテルに行こうと言うのは節操がなさすぎる。
最後まで決まらないなと、自分の迂闊さに落ち込みながら「……か、帰ろうか……」と言ってヘルメットを被り後ろを向く。
「あ……清、待って」
その時、康臣がそう言ってシャツの裾をひっぱった。
「うん?どうした?」
振り向いてそう聞くと康臣は真っ赤な顔をしながら言った。
「俺……その……そこで。きゅ、休憩したい……な……」
「っ……」
裾を少しつまんで、上目遣いでおずおずと言う康臣は、あんまりにも可愛くて。俺はこの場で押し倒したいと思った。
ホテルのドアを閉めると。その場で抱き合い、何も言わず貪るようにキスをした。
「……っん……う……ん」
急くようにお互いの服を脱がせ合うが、キスをしながらだとなかなか脱げなくてやたらと時間がかかった。
服がドアから転々と散らばり、ベッドの下にもくしゃくしゃになって落ちている。
俺はベッドにたどり着くとキスをしながら押し倒した。
二人の中心はガチガチに勃ち上がっていて、すでに準備万端だった。
「清……清……早く……早くして……」
「ちょ、ちょっと待って……ゴムが……」
康臣は足を絡め急かすように引き寄せる、いつもより積極的な康臣に驚きながらも、俺は慌ててベッドサイドに置いてあるコンドームを装着する。
準備がすむとすぐに康臣に後孔にあてがい挿入する、康臣は自分から誘うように足をいやらしく開く、俺は我慢できずに中を慣らすこともなく一気に突き挿れる。
「っあ!……ん……」
「っく……やば……」
昨日散々やったせいか、康臣の中はまだ柔らかい。吸い付くように締め付けてきて、すぐにでもイキそうだった。
なんとか堪えて、少し腰を引くとさらに奥まで進める。
「っあ……あ……」
康臣は、気持ち良さそうに嬌声を上げ背中を反らした。ぴんと立ち上がった胸を逸らす、誘われるようにそれを口にふくむと、康臣は切なそうな顔をして、気持ち良さそうにまた声を漏らした。
それに煽られるように、俺はすぐに激しく抽挿を開始する。
昨日あんなにしたのに欲求が止まらない。
胸の飾りを舌で転がし緩く歯を立てる、そうすると康臣はもっとと言うように俺の頭を抱え髪をかき回した。
「康臣……」
「っあ……いい……もっと……もっとして」
「ん……今日は随分積極的だな、どうしたんだ」
明らかにいつもと違う痴態にそう聞くと康臣は少し心配そうな顔になり「変?……こ、こういうの嫌?」と言った。
「いや、全然。エロい康臣も最高」
顔を赤らめて恥じらう姿もいいが、こういう姿もそそる。むしろどちらかというとこっちの方が俺は好きだ。
「ほ、本当?……ん……っあ」
「もっと康臣のエロい姿も見たいな……何して欲しい?いつも俺の要望ばっかり聞いてもらってるし……何でも言って?」
敏感なところを探りながら腰を動かすと、康臣はとろりと蕩けたような顔に戻り、すぐに色っぽく喘ぐ。
呑みすぎて初めて康臣を抱いた時の事を思い出した。あの時の康臣もこんな感じでやらしくエロくて、思わず腕の中にいた康臣にキスしてしまったのだ。
「あ……あん……清……だめ、そこばっかりしたら……」
「ほら、言って」
「っ……うん……うん……いっぱい……いっぱい触って……欲しい」
「うん、それから」
「それから、奥まで……突いて。清の硬いのでグリグリして……っあ……あん!」
可愛い要求に限界が近づく。足を抱え直し、ギリギリまで引き抜き思いっき叩きつける。狭い最奥まで届くと中が蠢いた。
そうすると、康臣はまた気持ちよさそうに体を反らし喘ぐ。
いつも真面目で抑制的な康臣がこぼす舌ったらずな卑猥な言葉に煽られて、抽挿は段々激しくなってくる。
「ここ?ここがいい?」
「っあ!……あん!……うん……そこ、いい……っあ……そこ好き……好き……清……もっと……き、清……好き……すき、っあん……キス、キスもして」
「っく……ああ、康臣。本当……最高……」
もっと喘ぐ声を聞きたいと思ったけど、要望の通りキスをする。口の中もトロトロで今日はアイスを食べていないのにやたら甘く感じた。
舌を絡めると康臣も積極的に応える、あっという間に汗や唾液で体中ドロドロになってくる、でもそんな事関係ないくらい気持ちいい。むしろもっともっとと焦いでくる。
今日の康臣はどこもかしこも甘い、唇も、首筋も。そして俺自身を締め付けるそこも甘くて声も甘く響くから脳の奥まで溶かされるような感覚になる。
「あっ……っあ……清……清……」
ベッドがギシギシと唸る。
康臣はうわごとのようにそう言って自らも腰を動かす、俺はその姿に頭が沸騰しそうになってくる。もっとしたい、もっと奥まで犯したいという欲求でいっぱいになる。中が締まって中に入れたものがぶわりと大きくなるのを感じた。同時に康臣も体を震わせる。
ガツガツと腰を動かしながら、体が二つあればいいのにと思った、そうすればもっと康臣の体を堪能できるのに。
それぐらい欲が溢れて追いつかなかった。
あっという間に限界が来て、欲望を康臣の中に吐き出した。
「っく……」
「あっ……ああ……きよ、きよ……」
康臣も同時に気持ち良さそうに欲を吐き出す。
予定になかったセックスだけど、想定外に気持ちがよかった。
明日の仕事なんて頭から消えていた。その後も一回じゃ収まるわけもなく。
康臣ももっとして欲しいとでも言うように俺を引き寄せ、足を絡めるからすぐに二回目に突入した。そのまま俺たちは三度四度と回数を重ね。
気がつけば時間は深夜を周り、俺たちはそのままホテルで夜を明かした。
**********
その日から、俺は康臣の部屋に以前より頻繁に通うようになった。
仕事の忙しさが一段落したし、なによりあの日から康臣のセックスが積極的なものに変わったのもあって、俺はそれに夢中になって日も開けずに通ってしまう。
それに、康臣の部屋は居心地が良いのだ。程よく狭くて適度にかたずけられ清潔で、康臣みたいに柔らかい雰囲気が漂っていてずっといられる。
最近は外食ばかりだと体に悪いからと料理を作ってくれるようにもなった。流石に悪いなと言ったが一人だと食材が余るからむしろ丁度いいといわれて、結局その言葉に甘えてしまう。
だから余計に入り浸ることになった。
俺たちの仕事は忙しい。一段落したとはいえ荷物が多い日は、遅くまで残業になる。
それでも俺は康臣に会いたくて、部屋に寄って何もしないまま寝て、次の日そのまま仕事に行くこともあった。おかげで最近、自分の部屋がただの荷物置き場になってしまっている。
いっそのこと、一緒に暮らした方が都合がいいような気がする。一度康臣に言ってみようか。
——そんなことを考えながら、俺はコンビニから出た。
今日はお互い休みで、俺は当然のように昨日から康臣の部屋に泊まり、お腹が空いたので食事を買いに来たのだ。康臣はまだ寝ていたから起こすのは悪いと思ったから一人で部屋を出た。
夏も終わりに近づき朝が涼しくなってきた、お腹空いたなと思いながらアパートの階段を上がる。
その途中でスマホの電話が鳴った。母親からだ。
「もしもし?」
なんだろうと思いながら階段の踊り場で立ち止まり、手すりから外を眺めながら電話に出た。
話の内容はなんてことのない、ほとんど連絡のない息子にたいしての愚痴だった。
一人暮らしを始めて、仕事も始まり忙しかったのもあり帰れないことの罪悪感もあったので、長時間を覚悟して話を聞くことに。
案の定、母親はこっちのテンポにもお構いなしに喋る、俺はそれに「うん」とか「ああ」とかおざなりな返事をする。
話の内容は色々なところに飛んでついていくのがやっとだ。
ぼんやりと聞くともなしに聞いているといつの間にか結婚の話に移っていた。
親戚の誰々君は結婚したとか友達の娘さんは子供を産んだとかの後に『あんたはどうなの?』と聞かれた。
彼女もいないのに結婚どころじゃない。答えに困ってゴニョゴニョ口ごもっていると『情けない、付き合ってる人ぐらいいないの?』と言われる。
「いや、今は誰とも付き合ってないから……」
そう答えた後、ふと康臣の顔が浮かんだ。
でも康臣は男だ。彼女じゃないし、付き合ってるとは言えない。
……まあ、セックスはしてるけど。
そう思って友達が一番近い気もするが、それもなんだかしっくりこない。
そんな事をぼんやり考えていると電話口から『お見合い』という言葉が飛び込んできた。ぼんやりしていて前後を聞いていなかった。
「え?なに?お見合い?」
そういうとまた母親に怒られた。母はさらに『知り合いにあんたと年の近いお嬢さんがいるんだけど、どうかって言われたの』と説明する。
母親が言うには、お見合いと言ってもそんなに堅苦しいものではなく、二人で会って食事するだけでいいらしい。
気軽なもので、気が合えば連絡先を交換してまた会えばいいそうでなければそれで終わり、こちらはそれ以上干渉はしないからと説明する。
「……う、う〜ん、わかった。会うよ」
俺は、それくらいならいいかと了承する。最近顔を見せなかったことの罪悪感もあったし、そのくらいで母親の気がすむならいいかと思った。これでしばらくは、うるさく文句を言われなくて済むだろうという算段もあった。
その時、後ろの方でカタンという音がした。
誰かいるのかと思って振り向いたが誰もいなかった。なんだろうと思いつつ、他の階の物音か気のせいかと思って電話に戻る。
母親はまたしばらく話を続け。満足したのか、細かいことが決まったらまた連絡すると言って電話を切った。
「ああ〜腹減った……」
俺はぐったりと手すりに寄りかかる。朝から疲れてしまった。
見合いは承知したものの、今から気が重くなってきた。休みの日は出来れば康臣と一緒にダラダラしていたい。
とりあえず康臣の部屋に戻って買ってきたものを食べようと、一気に階段を駆け上った。
「ただいま……ってうわ!びっくりした。どうしたんだ?暗くないか?」
部屋に入ると、なぜかカーテンを閉めた薄暗い部屋の中で、康臣が背中を向けてぼんやり座っていた。
俺はそう言って、カーテンを開け陽の光を入れる。しかし康臣は「……うん」とぼんやりした返事を返すだけだ。
なんだか元気がないなと思いながら買ってきた朝食を康臣の前に置く。
「朝飯買ってきた、食べようぜ」
もしかしたらお腹が空いてるから、ぼんやりしているのかもしれないと思った。
「……ごめん、帰って」
「へ?」
康臣は少し怒ったような声だったので、俺は驚いて聞き返した。康臣は目を伏せているので、表情がよくわからない。
「あ。ご、ごめん。今日用事があるのを忘れてて……だから……」
康臣は慌てたようにそう言った。そう言った顔はいつもの表情で気のせいかと思い直す。
「ああ、そっか……じゃあ、帰るわ」
用事があると言われたらしょうがない、俺はそう言って康臣の分の朝食を置いて帰ることにした。
「本当……ごめんね」
「いいって、気にするな」
玄関で康臣は申し訳なさそう言った、でも相変わらず俯むき気味で表情はあまり見えない。
やっぱり少しおかしいなと思いながらも俺は部屋を後にした。
久しぶりに自分の家に帰る、今日は康臣の部屋でダラダラする予定だったから少しがっかりだ。
まあ、最近してない部屋の掃除でもしようかと計画を立てる。実行できるかどうかは別だが……
そして、次の休みこそは康臣とダラダラするぞと思いながら家に向かう。
夏もだいぶ終わりに近づいたが今日も暑くなりそうだと、そう思いながらギラギラの太陽を仰いだ。
——しかしその日から、なぜか康臣と会えなくなった。
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