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2ー9

後ろを気にしつつ廊下を早足で歩いていると、ちょうど由貴の姿が見えた。 由貴は自分の部屋のドアを開けようとしているところだった。 オレは由貴の所まで走り、一緒に部屋の中に入ると鍵をかけた。 「ちょ…な、何?」 由貴は驚いた顔をして、オレを見ている。 ドアの外ではオレを追いかけてきたらしい彰文がオレの名前を呼びながら、ドアを叩いている。 「え、あの、呼んでるけど…」 「いい。放っといて。その内、静かになるだろ」 オレの言葉に。 「え、でも、あの、二人って、付き合ってるんじゃないの?」 そう言われて、驚いた。 「はあ!?」 「え、ち、違うの?」 違うの?じゃねぇよ。 「全然、違うから。オレは彰文とは付き合ってないから」 「え、そうなの?」 そうなの?って、まったく…。 「…なあ、オレってさ、彰文と青山、二股をかけるようないい加減な男に見えるわけ?」 それって、けっこうショックなんだけど。 「あ、いや、それは…」 オレの言葉に、青山が焦る。 「オレと彰文は付き合ってないから」 青山の顔を見詰めて、真剣に訴える。 「あ、うん、わかった」 青山は顔を真っ赤にして、ギクシャクとオレから顔を逸らす。 そこで初めてオレも、オレの手が青山の肩を掴み、身体が密着していたことに気付いた。 慌てて手を離し、身体を離す。 今更ながら部屋に二人きりだという事に気付き、動揺してしまう。 かといって、廊下では彰文が未だに騒いでいるし。 「ごめん」 どうしようと思っているオレに、青山が謝ってきた。 「え?」 「別に、三城がいい加減だと思っていたわけじゃないけど、傷付けたのならごめん」 「あ、いや…」 青山に真剣に謝られて、今度は困惑してしまう。 確かにムカついたし彰文と付き合ってないけど、関係を持っていたことは事実だし…。 冷静になれば、いや、ならなくても、そんな噂になるような事をしていたオレが悪い。 「いや、オレの方こそ…」 それなのに、青山だけに謝らせるなんて…そう思い、オレも青山に謝ろうと顔を上げたが。 「好きだ」 俯いて謝る青山の黒いサラサラな髪の毛を見た時に、ふいに…なんていうんだろう…本当に、突然、オレは青山が好きなんだという思いがこみあげてきて、自然と声に出してしまった。 自分の口から出た言葉に自分で驚いたが、それと同時に自分で納得できた。 オレは青山が、好きなんだ。 転校してきた時から気になっていたのも、青山が好きだったからなんだ。 もしかしたら、初めて青山を見たあの時から…。 やっと、心が気持ちに追い付いた。 「……………」 気が付くと、ドアを叩いて喚いていた彰文の声が聞こえなくなっている。

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