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「僕は伝言を頼まれただけだし…雅志に青山由貴の事は忘れるように伝えろって。僕もその方がいいと思う」 「どういう事だ?」 「今度は犯されるだけじゃ済まないってことだよ」 声を殺して言われた彰文の言葉に、オレの顔から血の気が引いた。 「どうして、その事を…」 この学校でその事を知っているのは、オレと青山のふたりだけだったはず。 「まさか…」 あの映像を見たのか。 「勘違いしないでほしいけど、僕はその映像を見せられてないからね」 その言葉にホッと安心したのは一瞬で。 では何故、彰文がその映像の事を知っているのか、誰に聞いたのか、青山の居場所は…聞きたい事が沢山あり、言葉に詰まる。 「映像はもう消去されているから。安心していいってさ」 「え?」 「ただ、青山を忘れて諦める事が条件らしいから」 それって…。 「もし、青山を諦めなければ、犯すくらいじゃ済まないって。だから諦めた方がいいよ。青山だって、そう思ってるさ…その為に速水の所に戻ったんだろうし」 ………やっぱり。 青山がいなくなった時、そうかもとは思っていた。 俺の為に、青山は速水の所へ行ったんじゃないかと。 だったら、やっぱり青山を諦めるわけにはいかない。 青山を捜し出して、助けないと。 俺のせいなんだから。 そう決心した時、まるで水を差すように彰文の声が聞こえた。 「止めた方がいいよ。家族がどうなっても、いいの?」 その言葉に、俺は血の気が引く。 「確か、妹がいるんだよね?」 『跡継ぎは私が産むから心配しないで、安心して』 そう言って笑っていた妹の顔が頭に浮かぶ。 両親の顔も。 泣いていた顔や、怒った顔、心配してくれた顔…様々な家族の顔が頭の中を横切る。 家族には迷惑をかけられない。 -あの、襲われた日。 ボロボロになって家に帰った俺を最初に見つけたのは妹だった。 俺の姿を見た妹は何も聞かず、両親には内緒で傷の手当てをしてくれた。 そして、外に出るのが怖くなり、引きこもりになった俺を両親から庇ってくれたのも妹だ。 その日から、俺の味方になり親を説得してくれたのも妹。 妹がいなければ、俺はここまで立ち直れなかったかもしれない。 その妹と青山、どちらかを選ぶなんて。 俺には………。 妹の顔が思い出される。 それと同時に、最後に見た青山の顔も。 俺は………。 青山の笑顔が遠くなる。 ………ごめん。 弱虫な俺を許して。 ごめん………。 俺はその笑顔に、何度も謝った-。

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