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7ー1
-あの時、速水は晃のことを知らないと言った。
確かに、言った。
なのに。
今日、俺は晃が亡くなっていたことを知る。
それも、馨が俺を迎えに来たあの日に。
馨の乗った車に跳ねられて。
晃が亡くなる瞬間、馨はその場にいたのに。
晃の事を知らないなんて。
そして。
晃が亡くなったのは、俺のせいだ。
俺と速水の。
それなのに、俺はそれを知らずに、あれからずっと速水に囲われて。
晃が亡くなっている事を知らずに、ずっと………。
逃げられないなんて、ただの言い訳だ。
逃げる事を放棄した自分自身の。
逆らったり、反抗しなければ馨は優しい。
甘やかしてくれる。
縋りつきたくなる程に。
三城を盾に脅された事を忘れる程に。
このままじゃいけない。
と思いつつ、そのまま今日まできてしまった。
晃が亡くなっていたなんて知らずに。
もう、こんな所にいられない。
でも、逃げる事もできない。
僕が逃げたら、また誰かを傷付け、亡くすことになってしまうかもしれない。
それは駄目だ。
それなら。
いっそ………。
俺は立ち上がり、その部屋のドアノブに手を伸ばした。
窓の外では、雨が降り始めていた。
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