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第20話 嘘も方便

「オレに何させたいんですか」 「別にぃ。とりあえず座って欲しいかな」 先輩から視線を外さずに席に着いた。 「そうだね、まずは僕と遊んでもらいたいかなぁ。龍ヶ崎くんは抜きで。お薬とはなしで素のまんまのキミを相手にね」 「嫌です」 「即断しちゃっていいのぉ?」 いつもの少し高めの声で言ったあと、じぃっと大きな目で見てきた。 「龍ヶ崎くんはよくて僕はダメってどういうことよ? 別に恋人同士でもないんでしょ?」 「こ、恋人です」 少しどもったのは、恥ずかしがっていると思って欲しい。 「ふ~ん」 めっちゃ疑わしい目で見られた。 「あんなにチャラくてナンパだったのに、残~念」 先輩はオレから視線を外して、ヨーグルトを食べたあと、 「完全なネコちゃんになっちゃたんだ? つまんないの」 確か、この人『タチ喰いで有名』だって龍ヶ崎が言ってたっけ? 受けになったら興味が失せる性質(たち)だったはずだ。 「う~ん。桜井くんはまだまだ調教しがいがあると思うから、僕とお付き合いしたほうがお互いにメリットあるのになぁ。あの、何を考えているかわかんないおっかない龍ヶ崎くんのどこがいいの?」 龍ヶ崎のいいところ? 顔とか頭とか家柄とか言ったら、外見重視の龍ヶ崎の親衛隊みたいだし。 「好きなところが言えないなんて、ただのヤリ友じゃん」 「……匂いかな? 好きな匂いで落ち着くというか」 「うっわ、いやらしいぃ」 と、先輩にホントに嫌なものを見るように、目を細められた。 ポカンとしていたら、 「匂いって体臭でしょう? その人の匂いが好きってホントいやらしいぃ」 「ち、違いますよっ。香水の匂いですよ」 最初に急接近したときに嗅いだ匂いが、すごくいい匂いだったんで好きになった。 違うか? 好きな匂いだったんで、いい匂いに感じたんっだったけ? 「香水ってさぁ、同じ製品使ってても微妙に匂いが変わるのって、体臭と混じってその人の香りになるからだよ」 「へぇ」 少し感心していたら、 「なぁんだ、匂いフェチなんだ。僕は体臭ないから桜井くんの好みから外れちゃってるんだねぇ。残念だけど性癖の違いが僕を拒んだ原因だったんだ」 妙な持論で納得したような先輩。 これで、オレ、危険を回避できたの? いまいちよくわかんないけど、先輩の興味はかなり失せたみたいだった。

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