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第21話 ヨーグルトの味なんかわからない

「これ食べて?」 先輩が、スプーンにもったヨーグルトをさし出してきた。 「いりません」 『人から食べ物をもらうな』と龍ヶ崎から言われている。 特にこの人からはもらえない。 「警戒してんの?」 するでしょ。 媚薬入りの飴をもった前科があるんだから。 「こっちもリスク背負って、桜井さまとご一緒してるんだから。少しくらい言うこと聞いてくれてもいいんじゃないの?」 「桜井さま?」  「親衛隊員だもん。きっとツイッ◯ーで炎上してるよ」 「なんで?」 「桜井さまと二人っきりだよ? 完全に抜け駆けになっちゃうもん。明日は吊し上げくうんだから、ちょっとはお願いきいてくれてもいいんじゃないかなぁ?」 そんなもん、なんとも思っていないくせに。 「食べてくれないと、二人のこと親衛隊にばらすけど?」 「別にかまいませんよ」 オレたちのことが知れ渡ってしまって困るのは、オレよりも風紀副委員長である龍ヶ崎のほうだ。 「ネコだってばれて、桜井くんの大~好きなかわいい尽くし系の彼氏ができなくなっちゃってもいいの? これからは桜井くんのケツを狙ってくるむさ苦しい大男ばっかりになってもいいの?」 「ナイナイ」 オレは手を振って否定した。 それって、いかれた先輩の妄想だから。 実際にはそんな人いないから。 「何言っての? 今まではタチだと思ってあきらめてた輩が、わんさかと押しかけてきても知らないからねっ!」 ぷんぷん、と先輩は言って頬をふくらめた。 「なんでこんなに強情なんだろうなぁ。ちょこっと、これを食べてくれるだけでいいんだけどなぁ」 大きなため息をついたあと、 「ほら、ア~ンして」 と、オレの口元に、 山盛りになったフルーツ入りのヨーグルトをのせたスプーンを持ってきた。 首を横に何度も振って拒絶した。 「桜井くんが龍ヶ崎くんに引きずられて、精液まみれの手を洗っている写真や、キスされてとろけてる写真とかあるんだけど」 えっ? と、口を開いた瞬間にスプーンをねじ込んできた。 「痛っ」 と、オレ。 ガチッとスプーンが歯にあたって痛い。 うっすらと開いた口に入れこまれたけど、大半は唇からたれて、顎につったて襟元を汚した。 ヨーグルトの中に入っていた白桃なんか膝まで落ちてしまった。 「ちゃんと食べなきゃダメでしょ」 先輩は眉尻をさげて、困ったように言いながら、オレの口元を細いきれいな指先でぬぐった。 「顎にもたれちゃっているよ」 紙ナプキンでオレの顎をふいてくれた。 「写真って?」 と、オレは小さな声しか出せなかった。 「見たい?」 と、聞き返され、 オレは首を小さく横に振った。 「つまんないの」 と、言った先輩を無視してオレは立ち上がった。 逃げるように歩き出したときに、 「桜井くんよりも龍ヶ崎くんで遊んだほうがおもしろいかなぁ」 と、先輩は低い声でぼそりとつぶやいた。

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