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第55話 ……修ちゃん、なにがあったの?

「いい匂いする。王子なんかつけてる?」 タレ目の人が、肩に顎をのせてきた。 頭の重みが重い。 そして、とがった顎が痛い。 「つけてない」 と、オレ。 「シャンプーか柔軟剤の匂いかなぁ?」 と、タレ目の人がオレの髪をさわりながら匂いをかいできた。 「ん~ん?」 犬、かよ。 オレの肩から頭が離れた。 首筋に顔を近づけられて、鼻をならされた。 「あぁ、服の匂いだわ」 と、タレ目の人。 「じゃま」 と、オレはタレ目の人の頭をどかした。 「やっぱ美人だよねぇ。初等部のまんま育てば、アイドル系美少女になったのにぃ。系統変わちゃって、ざ~ねん」 と、タレ目の人。 「はきまきも容貌変わりすぎで、別人かと思ったよ」 と、オレ。 「……あは。ビックリ。……覚えてたんだ」 と、修ちゃんこと八巻修一郎(やまきしゅういちろう)は泣き笑いみたいな顔をした。 小さくて細い体に、黒髪のくせ毛。 メガネの奥には少しタレぎみの黒い目。 初等部3年生の時に同じクラスになって、八巻という名字を『はきまき』と呼び間違いしてしまって、修ちゃんに『はちまきじゃないよ。やまきだよ』と大泣きされたことがあった。 そして、5年生の夏に転校していった。 「いつ戻ってきたの?」 と、オレ。 「中3の2学期から」 「そんな前っ?」 「そ。1年と9ヶ月と25日前」 こまかいよ、修ちゃん。 外見アバウトなのに、性格めんどくさそうだ。 「忘れないでくれてありがとう、悠ちゃん」 と、修ちゃんにぎゅっと抱きしめられた。 中等部3年の2学期から。 龍ヶ崎と同じ時期に編入してきたんだ。 海外育ちの龍ヶ崎の御曹司の話題がすごくて、修ちゃんの噂は耳に入ってこなかった。 気づけなくて、本当にごめんね、修ちゃん。

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