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第57話 名前呼びはやめてください
「桜井先輩」
と、高槻くん。
「ん?」
と、オレは首をねじって高槻くんを見た。
「八巻さん、その人をすぐに解放して下さい。新人教育をまかされているのは、ぼくですので」
と、高槻くん。
オレのシャツの後ろ襟をつかんで、立たせようとしてくる。
く、首が絞まる。
「う″うっん」
苦しいっ。
「え~、やだぁ」
と、まのびした修ちゃんの声。
「悠人、茶」
と、龍ヶ崎。
は?
名前を呼び捨て……。
さっきは名字呼びだったのに。
なに?
「おぉぅ?」
と、変なうなり声をあげてしまった。
龍ヶ崎を見ようとしたら、高槻くんに引き上げられた。
修ちゃんがオレから離れたからだ。
後ろ襟を持たれたまんま、
「ちょっ、高槻くん?」
後ろ向きで、引きづられていく。
力、強いね。
オレより小柄なのに、高槻くん。
修ちゃんはニコニコしながら、手をふっていた。
永島は虫けらを見るような顔をしてから、机に向き直った。
俺様バカ委員長はパソコンを見たまんま。
龍ヶ崎はガラス玉みたいな目でオレをみすえていた。
ふいに、オレの足が止まってしまった。
「桜井先輩?」
「自分で歩くから」
と、高槻くんの手をつかんで、オレのシャツから手を離させた。
ひきつれたシャツの胸元をただし、ネクタイをしめなおす。
引き出されたシャツをズボンにおさめた。
「あぁ腐っても生粋 ですね」
と、高槻くん。
うわあぁ~。
久しぶりに聞いたわ、それ。
生粋とは、この学園の幼稚園から所属している各学年に、10人位いる生徒の呼び名だ。
つまり、4歳時からずっと芙蓉学園に在籍している生徒のことで、少人数しかいないので特別視されていた。
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