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第11話

「それで、受けと攻めなんですけど。一般的にカップリングは、攻めかける受け、って表記されるんです」  言葉も出ない由幸を置いてけぼりにして、奏は宙に指でばってんを書いた。 「攻め×受け。俺×向井さんだったら……そうだなあ。高校生×社会人とか、リアルDK×リーマン、書店員……、そんなとこっすかね~。ちなみに俺の好きなカプは同級生カプです。特に高校生。若さゆえの葛藤とかストレートな想いとかじれったさとか、めっちゃキュンキュンきます」 「はあ……」  わかったような全然わからないような、やはり奏についていくのは大変だと由幸が改めて感じていると、サラリーマンの、奏にならって言うと、リアルリーマン(全員おっさん)の団体がガヤガヤと入店してきた。どうやら近くのオフィスのサラリーマンが残業合間に食事を摂りに来たようだ。 「出よっか」  急に押し込まれたBL知識に混乱しつつ、奏を促し店を出る。駅前広場には帰路を急ぐ人達の姿が目立つ時刻になっていた。 「あの、向井さん」 「あ、はい」  改まってこちらを向く奏に、由幸も気持ちを切り替えて向き直る。 「今日はめっちゃ楽しかったです。ありがとうございました」 「え?」 「俺、学校とか友達にはこういうの隠してるんで、こんなに人に語るの初めてですごく嬉しかったです」  奏は照れくさそうにはにかむ。語ると言っても、由幸相手でもよいのだろうか。そっちの知識はほぼ皆無のため、ただ聞くしかできなかったのに。 「また、一緒に飯とか食ってもらえますか?」 「あ、うん。もちろん」 「やったあ……! じゃあまた語ってもいいですか?」 「え、ああ……。八千代くん面白いし、俺でよかったら」  由幸が頷くと、奏は制服のポケットからスマートフォンを取り出した。 「あの、連絡先とか……」 「うん。ラインでいいかな」  互いのスマートフォンを向け合って振り、ラインのIDを交換した。 「俺、大人の友達って初めてかも」  友達という単語が少しくすぐったい。 「俺もお客さんと連絡先交換するの初めて」  由幸は画面を見つめて微笑んだ。奏のアイコンはピンク色のうるうる瞳をした微妙な感じのうさぎのぬいぐるみだ。そんなキャラクターに見覚えはない。もしかして高校生の間で流行っているのだろうか。 「ねえ、このうさぎ、何?」 「これっすか? これ、俺の好きなBLのグッズなんですけど」 「グッズ……」  まさかグッズにまで手を出していたとは。そりゃあバイトでもしなければ資金が足りないだろう。ものすごくBLを好きなのは伝わってくるけれど、ほんとハマると大変なんだなあ、と由幸は生温い目で画面を見つめた。

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