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第13話

 3.  奏からメッセージが届けば一緒に食事に行くのがお決まりになりつつある。場所は駅ビルに入っているチェーンの定食屋だったりファミレスだったり。    定食屋で焼き魚に飢えていた由幸は鯵の干物定食を、奏はごろごろ野菜の黒酢豚定食を注文する。皿が出てくるのを待っている間、由幸は自分から話をふってみた。ただ聞いているだけじゃ、奏だってつまらないだろうと思ったのだ。 「奏くんは書店特典とか興味ないの?いつもうちで買ってくれるけど、特典がつくことってあんまりないじゃん?」 「特典ですか」 「うん。うちのバイトの女の子は、やっぱり特典目当てで専門店で買うらしいよ」  萌えとかきゅんはやはり理解できなくて、今の由幸のレベルではこの程度の会話がやっとだ。 「うーん……。クリアファイルとかポストカードは正直欲しいとか思わないすね。でもやっぱ漫画のペーパーとか小冊子は嬉しいかも」 「だよねえ」 「でも俺、定期の区間内に専門店とかなくて、したら、電車代かかるじゃないですか。一番近いところで往復三百円ちょいだから、そうなると二回通ったらBL一冊買えちゃうんすよ。それに書店特典って売ってる店によって違うから、何種類もあるじゃないですか。コンプしようと思ったらおんなじ本何冊も買うことになるでしょ。キリがないじゃないですか。最近は電子だとほぼ特典書き下ろしみたいなのついてるみたいだけど、俺、紙派だし。でも、ネット通販でそこオンリーのペーパーついてるって時は、結局それポチるんですけどね」 「あ、そう」  会話の入り口気分で尋ねたことが何倍にもなって返ってきた。奏が語る間にテーブルの上には頼んだ品が揃っていた。  語るだけ語ると奏は何事もなかったかのように「冷めちゃいますよ」と食事に箸をつける。そんな感じで夕飯を共にすることが十日に一回のペースで由幸の日常となりつつあった。  奏の語りは唐突に始まり、相変わらず由幸にはちんぷんかんだったりするけれど、ちょっと変わった友達ができたことを由幸は嬉しく感じる。奏と会う約束の日は、早く仕事終わらないかな、と思わずにはいられない。    今夜は駅前で奏と待ち合わせだ。由幸のほうが先に仕事をあがることができたため駅前広場で立っていると、ファストフード店のほうから奏がダッシュでやってきた。 「向井さん! 向井さん!」  いつになく興奮している様子で奏はキラキラの王子スマイルを振りまいた。 「俺! さっき、ものすごいもん見た!」  有名人でも見たのかと由幸は辺りを見回すが、特に人だかりができているわけでもなし、いたっていつもの駅前広場だ。学生やサラリーマンが駅へと向かう姿があるばかり。 「さっき、そこの横断歩道で!」 「うん」 「俺の斜め前に二十代くらいのリーマン二人連れがいたんです! 多分、同僚ぽい雰囲気だったんすけど、それがね! 信号が青になって、いざ渡ろうって時に、片方が片方の腰に、こう……、すっ……って手をあてて歩き出して……!」  奏はすっと由幸の腰に手をあてた。どうやらその場を再現しているようだ。 「ねえ、これ、マジ、デキてるっしょ!?」 「は?」 「だって男同士ですよ? リーマン×リーマン! 普通、男同士でこんな腰に手ぇあてますかね? いや、あてないっす! まじで!」  そう言いながら奏は由幸の腰をぐいぐいと引き寄せた。

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