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第14話
「いやでも、俺たちデキてないけど、君に手あてられてるよね、腰に」
ちょっと意地悪してみたい気分で奏の手を指さすと、さっとその手は離れていく。
「だから……、そういうことじゃなくて」
「うん?」
すねて唇を尖らす奏を見て、ちょっと意地が悪すぎただろうかとそんな気にもなってくる。
「ごめんごめん。まあ、そうかもね。普通、男同士でそんなことしないかもね」
「でしょ! やっぱデキてるとしか言いようがないし!」
しかしよく、そんな些細な他人の仕草に敏感に気がつくものだと由幸は感心した。もしかして奏は人間観察が趣味なのだろうか。そう尋ねると、奏はビシッと親指で自分のことを指さした。
「俺の腐センサー、まじ、優秀なんで。あえて見なくてもすぐに反応できるんです」
「ふ……センサー?」
初めて聞く謎の言葉に戸惑う。『腐センサー』とはいったい……。
「例えばあれ」
大学生風の男子二人連れを奏はこっそり目で示した。
「あれは黒髪ジーパンが攻めで、茶髪ハーフパンツが受けです」
少し落ち着いた雰囲気の黒髪の男子と、茶髪の軽そうな感じの男子が普通に談笑しているようにしか由幸には見えない。
「なんで?」
「あれはチャラ男受けです」
「んんっ?」
チャラ男受けと聞き、再び観察してみるがやはりただの友達同士。たまにチャラ男が笑いすぎて黒髪の肩をバシバシ叩いているけれど。
「えっと、攻め……は?」
「あれは確実に硬派攻めですね。一見相性の悪そうな硬派とチャラ男ですが、きっと攻めは受けのくったくのない笑顔が可愛くてたまらないんです。彼と出会うまでは遊びまくりで節操のない性生活を送ってきたチャラ男……。でも攻めと出会って、本当の愛を知る……、みたいな」
よくそこまで妄想が膨らむものだ。優秀な腐センサーと言うけれど、それ、誤作動起こしてませんか?
「八千代くん……、なんか、君、すごいね……」
「無意識なんです。センサーが優秀すぎて、男二人見るとすぐカップリング作れちゃうんです」
別に褒めていないのに、なぜか奏はちょっと照れている。
「ちなみに向井さんはやっぱ受けだと思う……」
ぼそりと呟かれ、由幸は思わず顔をしかめた。魔性の受けと言われて以降、たまにこうやって奏は由幸を『受け』と言う。
「八千代くんさあ、その根拠は何? なんで俺が突っ込まれるほうなんだよ」
受けと言われる度、あいかわらずお尻の筋肉がキュッとなる。突っ込まれてたまるものかといわんばかりに。
「まず、向井さんて基本イケメンなんですよ」
イケメンと言われて嫌な気分はまあしない。母親似のこの顔を不細工の部類だと思ったことは自分でもないし、女の子のウケが良いことも自覚している。歴代の彼女の数は片手の指では足りないくらいだし、それなりにモテてきた。
「ただ背がな~。向井さん、身長いくつ?」
「えっとー……、百七十……」
由幸は二センチさばを読んだ。背が高くないことは昔からコンプレックスだった。
「へえ、意外とありますね。俺より五センチ低いのかあ……。理想は攻めより十センチくらい下なんだけど。攻めが受けのおでこにキスしやすいくらいがちょうどいいんですけど……、まあいっか」
由幸の全身をじろりと見て、奏はぶつぶつと呟いた。
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