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第15話
「向井さんてイケメンはイケメンでも、カワイイ系だと思うんです。笑うと目尻が下がるとこなんか、めっちゃキュンポイントっていうか。受けっぽいなって」
「え-……。でも八千代くんが買ってる漫画だって、どっちもカワイイ系なの見たことあるんだけど」
最近のBLは、一昔前までの由幸がイメージしていたような、攻めがやたら長身で面長、受けがまさに美少女! みたいなものは少なくなってきている。一般の少女漫画に出てくるような普通の男子が二人ならんでいたり、これ両方攻めでしょ、といった感じのイケメンリーマンが並んでいたり。カワイイ系の二人が見つめ合っていたり様々だ。
「それは向井さんが中身を読んだことがないからでしょ。どんなイケメンでも、受けはふとした表情や仕草がきゅんと可愛かったりするんですよ。特にクール系の受けがちらりと見せる可愛い一瞬……。まじ、きゃわわわわ~……ってなるんすから!」
「きゃわ、わ……?」
その一瞬を想像してか、奏は小さく悶えた。
「そっす! まじきゃわわ、きゃわたん、きゃわゆす! とにかくどんな受けでも可愛いんです! 俺、BL読むときは攻め目線で読んでるんで、受けが可愛くないと萌えないっていうか。ふふっ」
少し上から目線に鼻で笑われ、しかも謎の受け認定。
「でもさ! それだけでしょう? 俺、男だし受けってことはないんじゃ──」
「だ、か、ら! BLは両方、男、ですってば!」
由幸の鼻先に、奏はびしっと人差し指を向けた。
「あー……、そうだね……。そうでした……」
どうにも自分を絡めて話されることにリアリティが全くわかない。
「ボーイズのラブ、だもんね……」
自分に言い聞かせるように確認する。
「そうです。ボーイズラブなんです。後、向井さんは受け向きの名前だと思うんです」
「受け向き? 名前って、向井由幸が?」
何の変哲もない普通の名前だと思うのだが。
「はい。よしゆきさん。これ、BL的には何て呼ぶといいでしょうか?」
「えっ、クイズ?」
由幸は首を捻って考えてみる。昔から友達には『よし』とか『よっちゃん』などと呼ばれてきた。しかしそれじゃあどう考えても奏の求める答えには繋がらない。
「えっと……、ヨシヨシ……?」
捻り出した答えは、我ながら絶対に違うなと思わずにはいられないものだった。
「ぶっぶー! ハズレ-! 正解は~」
「うん、正解は?」
「ジャジャーン! ゆきちゃん、でしたあ!」
ゆきちゃん?
生まれてから二十二年間、そんな呼ばれ方は一度たりともされたことがない。どこをどうすれば、ゆきちゃんなんて呼び方に……。
「もしかして、由幸のゆき?」
「そうです。由幸のゆきちゃんです」
奏は満足げにうんうんと頷いた。
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