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第17話
由幸がストップをかけないと、朝まで萌え語りを続けてしまいそうな奏。
「そろそろ行こっか」
いつもは男同士、完全割り勘で食べに行くのだが、今日は由幸がおごるつもりだ。向かったのは立ち食いのステーキ店。入店するまでも少し行列に並んだが、店内はさらにたくさんの男性客でにぎわっていた。
「今日は俺のおごりだから、何枚か違う肉頼んでシェアしようよ」
「まじすか!? やったあ! あざます!」
セットのライスもスープも、口直しのサラダすら頼むことなく、いろいろな肉だけをひたすら食べる。以前からそういう頼み方をやってみたかった。せっかく食べ盛りの男子高校生と食事をするのだからと、由幸は二百グラムのステーキを各部位四枚注文した。
「やべえ! 肉まみれ!」
狭いテーブルに並ぶ肉を見て、奏は大げさに喜んだ。
「どうぞどうぞ。好きなのから食べていいよ」
「あざす! いただきまーす!」
醤油ベースのソースをかけて奏はまずサーロインから口に運ぶ。
「やべ! まじ肉汁! うんま!」
「ははっ」
美味そうに肉を頬張る奏を見ると、こちらも食欲がわいてくる。由幸は目の前のヒレステーキを切り分け頬張った。
「うん。こっちはそこまで脂っこくなくてサッパリしてるかも」
「そっすか? 俺は脂身だけでご飯三杯いけるっす」
いってもやはり男子だ。旺盛な食欲で、奏は次々と肉を口に運んでいく。
低いついたてを挟み向かい合わせで食べていた中年の夫婦が食事を終了させ席をたった。次にそこへ案内されたのは、チャラさを絵に描いたようなかっこうをした男子二人連れだった。
二人とも同じようなシルバーに近い金髪に英字の白いタンクトップ。首にはシルバーアクセサリーがじゃらりと存在を主張している。
一人だけなら個性的なそのいでたちも全くおそろいのような双子コーデになると、もう個性的なのか個性を消しているのかわからない。そもそも男友達と双子コーデなんてしたいなどとは思わないし。
気がつくとすっかり皿は空になっていた。由幸が食べきれなかった分は奏の胃袋の中へ消えていった。肉を前にすると、さすがの奏も萌えを語る気にはならなかったらしい。やはり奏も男子、萌えより食欲のようだ。
「じゃあ行こうか」
店の外の行列は絶えず、入店を待っている客がいる。由幸は財布を手にレジへと向かおうとした。
急にクイッと、後ろをついてくる奏に服の裾を引かれた。なにか忘れ物でもしたのだろうか。奏を通り越して元いた席を見たが、すでに店員がテーブルの後片付けをしていて、特に何も忘れていないようだ。
奏は能面のような無表情で、目でギョロリと方向を示した。奏の目の動きを追うと、由幸達の向かいに案内されたチャラ男二人連れの姿。
「え?」
彼らのテーブルにも肉が届き、さあ食べようというところのようだ。
奏が何を言いたいのかさっぱりわからず首を傾げながら会計をすませる。店を出たとたん、奏はなぜか爛々と目を輝かせた。
「見ました!?」
「え、何を?」
「俺らの前の席にいた男!」
見た。もちろん見たけど、何が彼をこんなにも興奮させているのだろう。
「あの二人、肉が来た時エプロンつけたじゃないですかー!」
あの店は熱々の鉄板の皿でステーキが提供されるため、ソース跳ねを防ぐために紙のエプロンを首に巻く。首の後ろで縛るタイプのエプロンはさながら大人向けよだれかけのようだ。しかしそのエプロンがいったい──。
「エプロンつける時に、背の低いほうがクルって背の高いほうに背中を向けたんすよ。したら背の高いほう……いや、攻めのほう! 攻めが受けにふわってエプロンかけてやって……。もうその仕草があまりにも自然すぎで! いつもやってます感がすごいっていうか……! さっと受けの首の後ろで紐を結んでやるとこなんて、もうっ……もうっ……もうっ……」
もうもう言う奏は牛肉の食べ過ぎで牛にでもなってしまったのだろうか。
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