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第21話

 でも奏に会えた。  どんな可愛くて美人な女の子との夜よりも、ちょっと変わった男子高校生と一緒にいたい。 「めっちゃ助かります。さっき買った新刊、早く読みたくてたまらなかったし」 「うん。俺もひとりでいたくない気分だったし……。行こっか」  由幸はカップの中身を飲み干し席をたった。  大学に進学するのをきっかけに、由幸は今のマンションへ引っ越した。母親の実家がわりと裕福な家で、そのマンション一棟丸ごとが祖父から遺産として由幸の母親へ遺された。その最上階の角部屋に由幸はただで住まわせてもらっている。  駅から住宅街へと続く道を進むと、緩やかな坂道へと続く。その坂を登りきった高台にそのマンションはある。 「うわわわ~……、まじやべえ……」  部屋に一歩足を踏み入れるなり、奏はその場に立ち尽くした。 「あ、やっぱ変?」  分不相応なのは自覚している。この角部屋は祖父が別宅兼書斎として愛用していた部屋で、特別仕様にリフォームされているのだ。 「変ていうか、まじヤバいですよ! 俺、こういう部屋めっちゃ見たことあるんですけど! これ、やり手リーマン攻めが住む部屋じゃないですか!」  七十平米のワンルーム。入居者は外資系やIT系の社員が多い。新卒書店員の給料じゃあ絶対に住むことなんてできはしない。  玄関から続く短い廊下の先にある部屋の扉を開くとすぐ脇にオール電化のカウンターキッチンがある。  その向こうには白い大理石調の床が広がっている。大理石は傷がつきやすいという祖父のこだわりであえて本物は使っていないらしかった。もちろん床暖房配備。  本来は小さい寝室が別についているのだが、祖父がその部屋をクローゼットに改装してしまったので、仕方なく窓際にベッドを配置している。 「うわうわうわ~。これ、どこでも突然絡みまくれますね! 床、めっちゃ広っ! ほらっ、寝転んでも全然平気!」  祖父が使っていたソファーとベッドを廃棄することなく由幸はそのまま使っている。買い足した家具はベッドスペースを目隠しするための、アジア風の衝立だけ。たっぷりとスペースが余っている床に、奏は大の字で寝転んだ。 「BLって、いつでもどこでもスイッチが入っちゃったらやりはじめちゃうんですけど、この部屋めっちゃ広いから、ほらっ、床に寝転んでも全然余裕じゃないですか-。床で一発、ソファーで一発」  奏はソファーまで這いずって進むと、やはりごろりと寝転んだ。 「見て見て、向井さん! このソファー、めっちゃゆったりサイズですね! しかも黒の革とかかなりいいっす! よく考えてます! もうどんだけナマでいきまくってもお掃除楽ちんって感じだし! 黒い革張りのソファーに白い飛沫が飛び散った……。やべえ。なんか読んだことあるやつじゃん……」 「は? ナマ? 飛沫?」  まさか、奏は由幸の部屋でBL的展開を妄想し始めたのでは……。  確かに祖父が選んだ家具は全てゆったりと大きいサイズで、黒革のソファーは大人の男が寝転んでも全く窮屈には感じない大きさだ。  奏は起き上がりこぼしのようにピョンと体を起こし、衝立の奥をのぞき込んだ。 「や、やっべえ~~! 大海原サイズじゃん!」 「おおうなば、ら……?」 「そっす! 普通、男子二人がベッドであれこれするなんて、シングルじゃ絶対無理だと思うんです! てかBLって、なかなかアクロバティックな体位になっちゃったりするわけだし、最低でもダブルじゃないと無理じゃん!? っていっつも思ってたんすよ、俺」

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