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第24話

 5.  由幸がこの部屋に住むようになって初めて買い足した家具は読書灯だった。  リビングを照らす部屋のライトは祖父の趣味だったのだろうか木目調のシーリングファンライトで、そんなに高くもない天井からものすごい圧迫感を放っている。五方向を照らす五つの電球はオレンジ色の暖色で、よく言えば暖かい光でリビングを包み、はっきり言うと光量が足りない。  インテリアに全くこだわりのない由幸は、あのオレンジ色の電球が切れたらファン付きライト丸ごと、クリアに明るいLED照明に取っ替えてやろうとずっと考えている。しかしここに越して五年、捨てられてなるものかとライトは球切れすることなく、どんと天井に居座っている。  週刊の少年漫画雑誌はページがピンクや薄いグリーンの安そうな紙でインクも薄いことが多々ある。オレンジ色の頼りない明かりでそれを読むと、いつの間にか眉間に皺が寄っている。もっとはっきり照らしてくれないかな!?と罪のないライトにイライラしてしまうのだ。  寝転がって読書をすることの多い由幸はベッドヘッドに置ける読書灯を購入した。煌々とページにさす光に、やっとイライラは解消された。  祖父は案外読書家だったようで、片側の壁が埋め込み式の書棚に改装されていた。そこには分厚い布表紙の本や、仕事関係の本など祖父の遺した書籍がぎっしり詰まっていたが、全て段ボールにしまいクローゼットの片隅に押し込んだ。  今は由幸の趣味で集めたコミックを棚に並べているが、まだまだスペースに余裕がある。  最近、奏は頻繁に由幸の部屋へ遊びにくるようになった。目的は棚にならぶコミックだ。  バイト代はBLに使いたいという奏。コミック代の他に遊びや飲食にバイトの給料は消えていく。BLに使う金額は絶対に減らせないと、流行りの少年、青年コミックはインターネットカフェで読むようにしているらしかった。  じゃあうちで読めばいい、由幸がそう提案したのだ。  風呂から上がり部屋に戻ると、ソファーの上で奏が目を瞑ってじっとしていた。 「八千代くん、眠い?」  まだ二十三時前。今日は奏もバイトだった。疲れて眠いのだろうかと、由幸は奏の肩をそっとゆすった。 「向井さん……、これ」  すうっと流れるような仕草で由幸に差し出されたのは一冊のコミック。 「おっ。すごいタイトル」  今日奏が書店で買った本だ。タイトルも露骨なら、表紙は全裸の美人受け(奏いわく)がほぼ全裸で寝そべっている。  しかしBLコミックってなんでこんなに帯の煽りがすごいんだろう。 「これ、まじ神でした。すっごくいい話……。めちゃくちゃ可愛いし、超ピュア……。萌え死にする……」  奏は再び目を閉じ、手を組んだ。まさに天に召される、そんな感じ。 「ちょっと、死なないで。そんなにいい話だった?」 「はい。この作者、これがデビュー一作目なんですけど、初めての単行本でこのクオリティ。すごいっす。天才か……。BL描くために生まれてきたんじゃなかろうか……。次回作も絶対買います」

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