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第26話

「そんなの言えるわけないでしょ! 本当に好きなんですよ? しかも男同士! 男女の恋愛なら普通に告白できるとしても、うっかり告白してフラれたら立ち直れないじゃん! 向井さんだったら言えますか?男相手に、しよう、なんて」 「言えるよー」 「はあ? それまじで言ってます? じゃあさ、向井さん、俺のこと好きな相手だと思って言ってみなよ。でもそこはちゃんと男同士とか年の差とか世間体とか、色々しっかり考えて言ってみてくださいよ」  男同士、年の差、世間体。  奏はそんなめんどくさいことをグチャグチャと考えながら読んでいるのか。いや、そういう障害があるからこそ萌えるのか。 「いーよ。じゃあ真剣に言うね? 八千代くん、しよ?」 「あっ、はい!」  あっという間に由幸はベッドに押し倒された。 「へ……?」  あれ? どういうこと? 漫画の話じゃなかったっけ?  「ちょ、ちょっと! なんで八千代くん、本気にしてんの?」 「や、なんか、向井さんめっちゃ可愛かったんで。やば。俺、ガチで攻め目線になっちゃった……。漫画でしか読んだことなかった美人受けのお誘いがこんな感じなのかって思ったら……」  えへへ、と笑って奏は体を起こした。 「もー」  由幸もつられて微苦笑した。でもなぜか心臓がドコドコ鼓笛隊みたいに鳴っている。久々に触れた他人の肌の温もり、のしかかる体は女の子とは違ってずっしりと重かった。新鮮な驚きは余韻となっていつまでもその感覚が抜けきらない。  動揺を隠しながら、由幸はごろりと横になり奏に背を向けた。 「このベッド、まじて広いっすね。ダブルですか?」 「いや、キング……」  ぎしりとベッドを軋ませ、隣に奏が寝転んできた。 「なんで枕ふたつあるんですか?」 「なんとなく」 「おっきいベッドっていいですね。ぜひ半裸の美少年に横になっててほしいです。枕にはイエスとノーのアップリケとか……、や、違うか。両方イエスのイエスイエス枕とか! 君だったらいつだってイエスだよ、なんて耳元で囁かれたらまじ萌える……」  あー、やっぱり八千代くんは八千代くんだなあ。  先ほどの見下ろす奏の顔が脳裏に浮かぶ。腐男子全開の彼の男っぽい表情にうっかり胸が騒いでしまったのは、きっと彼に感化されてしまっているのだろう。いつか自分も脳内カップリングしてしまったりBLに萌えたりするようになるのかもしれない。 「向井さんはこのベッドに女の子連れ込みました?」 「へ?」  奏の口から女性についての質問が出るのは珍しく、由幸は驚いてしまった。いつも男と男のことばかり考えていると思っていたが、やはり男子高校生、女の子への興味がないわけではないのだろう。  突然尋ねられた質問に、由幸はなぜか答えたくないと思ってしまう。女性経験が少ないほうではないけれど、奏に知られるのが後ろめたい。 「あるけど……」 「何人くらい?」 「え、秘密……」  正直に話せば、ピュアな(男同士の)恋愛を理想とする奏に呆れられてしまうかもしれない。由幸は答えを濁した。 「じゃあ男は?」 「はい? 男?」 「男は俺を含めて何人くらい連れ込みましたか?」  連れ込んだ? 男を? そもそも男に『連れ込む』なんて表現はしない。  しかし奏はにやにやと期待いっぱいの顔で由幸を見つめていた。 「男は連れ込んだことないよ……。泊めてやったことはあるけど」 「同じベッドで寝ました?」 「そりゃまあ……」  成人男性二人が寝てもまだ余裕があるこのベッド。飲み会の後、男友達と同じベッドで眠ることはある。でも誓って清い関係だ。

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