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第27話

「ふう~~~! いっすね! それ! 間違いとか起きませんでした? 酔っ払って、朝気がついたら二人とも裸で、お尻めっちゃ痛いことありませんでした!?」  奏は枕をギュッと抱きしめ足をバタバタさせ、ひとり興奮し始めた。 「はあ? あるわけないじゃん、そんなの」 「え-! めっちゃ定番なんですけどね。酔っ払ってからのうっかり朝チュン! 一夜の間違いから本気の恋が始まるでしょ!」 「始まるか! そんなの!」  本当に変な子だ。由幸は笑いながら掛け布団に潜り込んだ。  奏の横顔を見つめる。ほんと綺麗な顔をしているなあとやっぱり思う。こんな王子さまみたいな顔をして二十四時間腐った妄想ばっかしてるなんて誰が想像するだろう。  隣で奏は真剣な顔をしてBLコミックを読み始めた。唇が緩い弧を描き、幸せそうなオーラが漂っている。読書灯に照らされる奏を見ていたら、だんだんうとうとと瞼が重くなってきた。もう寝ちゃおうとそう思った時。 「はあっ!? まじありえねーんだけど!!」  奏の怒声で眠りの世界から引き戻される。 「八千代くん?」  奏は無言でバタリと仰向けになった。まるで銃で撃たれ殉職したデカのようにぴくりとも動かない。 「八千代くん。おーい。八千代くん」  体を揺さぶると、やっと奏は薄目を開き、感情の読み取れない視線を由幸に投げかけた。 「これ死ネタでしたわ……」 「はい?」 「これ、ガチの死ネタでした……」  差し出されたコミックの帯には『ユーレイが俺を狙ってます!』とポップな文字が躍っている。 「幽霊なら死んでるっしょ……」  由幸はパラパラとページをめくった。  話の内容は、主人公の部屋に夜な夜な男の幽霊が現れていちゃこらとイヤラシい展開が繰り広げられる。だんだんえっちな幽霊に恋心を抱き始める主人公。最後は幽霊が成仏してめでたしめでたし、と終わる。 「へえ。成仏できてよかったじゃん」 「よくない!!」  奏はカッと目を見開き叫んだ。あまりの勢いに由幸はビクッと肩を揺らした。 「よくないっすよ~……。切な系ハピエンなんてバッドエンドと同じじゃないっすか~~」 「はい?」  奏は枕に顔を埋め、ぶつぶつと文句を垂れ流し始めた。 「だってさあ、この作家、今までラブコメ系BLしか書かなかったくせにさあ、今回だって俺、ユーレイつってもどうせ生き霊か意識不明で入院してるかのどっちかで、最後は本体の攻めと出会ってハッピーエンドだと思ってたんです~……。でもさあ、なんで急に本気で死んじゃってんの? 残された受けはこれからどうやって生きていったらいいわけ? あの世でまた会おうね、なんて人生平均八十年もあるんすよ? 受け、まだ二十代じゃん! あと五十年以上どうすんの? 出家でもする!?」 「出家って……」 「俺、死ネタとかまじ地雷なんですけど! ちゃんとさあ、帯に書いといてくれないと困るんですよね……。この幽霊はまじで死にます、とかさあ……。こんなウキウキした書体で『狙われてます』なんて、しかもハートまでついてるから絶対生きてんじゃんって思うでしょ……。もう本気で死んでるならもっと明朝体で、しかも白黒で書けしっ!」

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