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第29話

 6.  奏の期待するBL的朝チュン展開など起きるはずもなく、健全な土曜日の朝を迎えた。土曜日は由幸の定休で、奏は朝からベッドに寝転びコミックを読み耽っていた。  健全な青少年にふさわしい人気の少年コミック。巻数はすでに二十巻を超える超人気作だ。 「う……、うう嘘だあ……!」  ご機嫌で読んでいたはずの奏が突然腕で顔を隠し震えだした。 「えっ、なに?」  この展開、だいぶ由幸も慣れてきた。 「推しが……、俺の推しが……、死んだ」 「えっ、泣いてる……?」  奏のこめかみにキラリと光る一筋の涙。奏の手にしている巻で死んだといえばあのキャラか。 「あ、うん。そうそう。びっくりしたよねー。突然だったもんね。えっと……、元気出して?」 「無理っす」  男子高校生が漫画ごときで泣くなんて。申し訳ないけど、ちょっと笑える。このまま奏を見続けていると、絶対笑いが我慢できなくなる予感がして、由幸はそっと視線を遠くへそらせた。 「推しカプだったんです」 「おしかぷ……」  奏は震える指で問題のシーンを指さした。 「これが受け! 俺の推しは攻めっ……!」   それだけ伝えると、奏はベッドに顔を伏せた。まさかとは思ったが、奏は漫画の登場人物を勝手に脳内カップリングしていたようだ。  「俺ぇっ! この二人すごく好きなんです……。上司と部下、戦友、熱い信頼関係……、完璧なバディですっ! 二次でも人気のカップリングで、イラスト投稿サイトで検索しまくってめっちゃお気に入り入れてたのにぃ……! つっても同人誌は買ったことないんですけど。だって二十や三十しかページのない本が一冊五百円とかふざけた値段で売ってるとか。それ買う金があったら商業BL買いますから! でもやっぱ読めば読むほど二人の絆とか愛とかビンビンに伝わってきて……。向井さん、アナザーストーリーは読みましたか?」 「読んでない……。だって絵が違うから違和感すごくて」  この人気作、作者監修のもと他の漫画家の手によってキャラクターごとに過去や来歴が描かれたコミックも発売されていた。 「俺は読みましたよ……。俺が受けだと信じて疑わないこのキャラの過去、キャラの背景を知り、やっぱ受けだなって思いました! 出会った瞬間二人は恋に落ちる運命だったんだって再確認しました。なのになんで死んだんだ……」  なんでと言われても由幸にだってわからない。 「このカプを愛する全国の腐女子はいったいどういう気持ちで二次カツしたらいいんすかね?どんな幸せ展開妄想したって結局は死んじゃうんだよな、って思わずにはいられないじゃないですか。じゃああれか? 二次にありがちな異世界パロとか学園パロ、そっちで幸せにしてあげればいいんすかね?」 「えー、わかんないよ」 「あー、めっちゃ語りたい……。このカプについて同じ趣味の人はどう思ってるんだろう……」  やっぱり自分では役不足だったか。由幸には生ぬるい目で奏を見守るしかできない。  しかしこのキャラとあのキャラがどうやったらデキていると思えるのだろうか。理解できない発想に由幸は、うーん、と首を傾げた。 「あっ、そうだ」

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