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第33話
7.
まるで恋みたいだなと思う。
奏をひとり占めしたくて、会いたいと言われれば心が跳ねて、顔を見られた日は嬉しくて。まるで恋をしてしまっているみたい。
でも今まで男にそんな気持ちを抱いたことは一度もなく、恋愛対象は可愛い女の子だった。じゃああれか、奏が持ってくるBLコミックに感化されてしまっているのか。
奏が薦めるBLは全てハッピーエンドだ。最近めっきり恋愛事から遠ざかっていたため、コミックの登場人物に自己投影させてしまっているのだろうか。
しかしコミックはあくまでも作り話だ。現実に男と男がこんなふうに自然に両想いになるわけがない。万が一、自分が奏のことをそういう意味で好きだとして、奏から同じ気持ちが返ってくるとはとうてい思えない。
それを思うと、自分の中に芽生え始めた想いを肯定するのが恐ろしかった。だったら一生気づかないふりをしていたい。
「向井さん」
奏がじとっとした目を向け、由幸の服の裾を引っ張った。
認めたくない感情に必死に蓋をしようとする由幸の気持ちなんてこれっぽっちも気づいてないのだろう。
「なんでそっちで寝るんですか」
毛布を手にソファーへ向かう由幸を咎めるようなその口調。なんでと言われても、最近同じベッドで眠るのが辛いのだ。隣で眠る奏の寝顔や体温に、罪悪感と諦めの気持ちが津波のように襲ってくる。
腐男子とはいえ女の子とつきあったことがあると言っていた。由幸がこの気持ちを認めたら、奏はきっと離れていく。
貸してもらったコミックにもそんな心理描写が描かれていた。わかる、ものすごくわかる。この気持ち、絶対に自覚しちゃあいけないんだよなと考えている時点で、自分の気持ちはわかっていた。
好きなんだ。いつの間にか奏のことを好きになっている。
どんどん育っていく自分の恋心はわかってるけど認めてはいけない。こんな恋は初めてだ。
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