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第34話
「ねえ、向井さん。これ見てよ」
「え?」
ソファーから動こうとしない由幸に、奏の方から寄り添ってきた。手にはBLコミックが、ページの開かれた状態で由幸に向けられた。
「な、何?」
奏が見せたページは、攻めが受けを壁に押しつけて事に及んでいる真っ最中のシーンが描かれている。攻めが受けの膝裏に腕を入れ、受けの体を持ち上げていた。これが以前奏の言っていたアクロバティックな体位なのか。アンアンハアハアの大騒ぎだ。
「これってまじでできると思います?」
「は?」
奏はいたって大真面目に、由幸の顔をのぞき込んだ。
「体位ですよ、体位。こんなふうに攻めのビッグマグナムで支えきれると思います?一応受けの足は持ってるし、受けも必死に攻めの腰に足を絡ませてるけど、これ、まじでできるんですかね?」
「さあ~……。漫画だし」
由幸の答えが気にくわなかったのか、突然奏に腕を掴まれた。
「向井さん。実践あるのみです。ちょっと相手、お願いします」
「はあっ!?」
漫画に描かれている通り、奏の腕が腰に回る。密着する体。バクバクとうるさ
い心臓の音が、肌から奏に伝わってしまいそうだ。
「向井さんは俺の首に腕を回してください」
強引に奏は由幸の腕を取った。まるで抱き合うようなポーズ、いや、まさに抱き合っているのだが、無邪気に笑う奏にちょっとばかり腹が立つ。
人の気も知らないで。
「向井さん、体重何キロ?」
「五十ちょい……」
「軽っ! 女子じゃないっすか! じゃあまじでいけるかも」
奏は由幸の両腿を抱え、抱き上げようと必死にふんばった。
「うおらぁっ!」
「そんなかけ声、漫画じゃ全く出てないけど」
白けた目で見つめても、奏は全然気になどしない。それどころかますます楽しそうに笑った。
「あははっ! そっすね。漫画の流れだと、立ったまま受けの片足を持ち上げての挿入、そんで完全抱っこですもんね。やっぱアレの最中ってアドレナリンとかどぱあって出て、人の重さがわかんなくなるんですかね」
「知らないし……。あっ!」
奏の腕の中から出ようとした瞬間、由幸の左足は奏の手で持ち上げられた。思わずよろけて、奏の首にしがみつく。
「これ……、立って向き合ったまま突っ込むなんて、ファンタジーじゃないっすかね」
どうやっても奏の中心は由幸の後ろには届きそうもない。ぐりぐりと色んな角度から腰を押し当てられると、さすがに生理的反応を起こしてしまいそうだ。
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