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第47話

「でも……、俺の好きと八千代くんの好きは全然違うよ……」  声は震え、視界は涙で霞んだ。ぼやける視界の中で奏は「そうかなあ」とのんきそうに首を傾げる。 「でも俺、やっぱり向井さんのことが好きですよ」  奏はにっこりと笑った。 「八千代くんの好きってどんな……?」  期待するな、と思うのに聞かずにはいられなかった。 「俺の好きは基本『攻めたい』です」 「BLみたいに……?」 「はい。もちろんBLみたいにです」 「それは、俺に?」 「はい。俺が攻めだったら向井さんは受けでしょ?」  にこにこと無邪気に笑う顔が本当に憎たらしい。 「なんでそんなに簡単に言うの……」 「だってストレートに伝えるのが一番でしょ。向井さんも言ってたじゃないですか。はっきり気持ちを伝えればこんなに拗れることないのにって」 「でも……、八千代くんは拗れに拗れてのハッピーエンドが好きなんでしょ」  奏はどこまでもBLを絡めてくる。まるで人生の教科書がBLの中にあるかのように。由幸の気持ちすら、BLの中のおとぎ話かのように。 「でもそれって漫画の話ですよね」  一瞬、奏の声に真剣味が増した。 「え?」 「向井さん。俺達の恋愛はリアルですよね。俺、向井さんとのことにBLみたいな拗れ展開は望んでないです。向井さんが俺のこと好きって言ってくれて、俺はストレートに気持ちを伝えたつもりです。それ、向井さんに伝わってますか?」  この恋が実ろうとしている。  男同士、互いに恋愛対象は異性。こんか気持ちが生まれること自体、とても不自然なのかもしれないのに。  なのに奏も由幸と同じ気持ちだなんて。全くの一方通行だと思っていた恋が小さな丸い実を実らせた。 「いつから……、いつからそう思ってたの?」  思い返せば初めて交わしたキスは、奏からの告白だったのかもしれない。でもちゃんと言葉にしてくれなかったから、由幸には伝わらなかっただけで。 「多分……、初めて声をかけてもらった時からです。ずっと俺の中で向井さんが一番でした」  ぽろりと涙が頬を流れた。ぐしゃぐしゃな泣き顔で由幸は笑った。 「泣かないでください」  奏の手が頬に触れる。その手が持つ意味が昨日までとは違って感じる。由幸に触れる奏の手は優しく、好きと語りかけてくるようだ。 「八千代くん」  その手に自ら頬を擦りつけるとするりと顎を持ち上げられた。 「ん……」  啄むようなキスは今までで一番甘くてとても幸せだった。唇が腫れるんじゃないかというくらいキスを繰り返し、それでも物足りなさそうに奏は離れた。 「八千代くん、なんで初めての時に教えてくれなかったの……。八千代くんの気持ち、全然伝わってなかったよ……」  からかってされたと思ったキスはひたすらに苦しみだけを残した。 「すいません……。普通BLだとキスしただけで伝わるもんだったりするんで……。だめでした?」 「あー。だからBLだったらとか言ってたのか……。うん。だめだったね」  しょげる奏をソファーに座らせ、由幸も隣に腰を下ろした。やっぱり現実は漫画みたいに都合良くは進まない。言葉にしないと伝わらないことは多々ある。 「その……、告白されたっていう女の子とは……その後どう? つきあうつもりじゃなかった、ってことでいいんだよね……」 「はい。本当はすぐに断ってました。すいません……。俺、向井さんのこと試したんです」 「え、試す?」 「実は俺、もしかしたら向井さんが俺のこと好きなんじゃないかって思ってました」  由幸の気持ちはとうにバレていた。鏡を見なくても自分の顔が赤くなっているのがわかる。 「もし向井さんがつきあうの止めてくれたら、俺、すぐに告白するつもりでした。でもあんなふうに言われて正直ショックで……」

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