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第51話
去年の十二月末、奏と正式におつきあいすることになった。告白しあったのは二十三日。翌日は恋人達の一大イベント、クリスマスイブだった。
奏が愛読するBLコミックをそれなりの数読んできた(読まされたともいう)由幸は、聖なる夜へ向けて覚悟を決めた。それらの本のお決まりとして気持ちを確認しあった二人は、ほぼ百パーセントに近い確率でさっさと体でも確認しあう。とにかくつきあうからセックスまでの展開がやたらと早いのだ。
だいたいが一冊のページ数で完結するストーリーなのだから、展開もさくっと早くなければならないのだろう。スーパー攻めに憧れる奏ならきっとこのチャンス、ものにするに決まっていると思った。
しかし二十四日はBLコミックの発売日で、開店するなり書店で買い物をし、その後はだらだらと購入した本を読んで過ごした。もちろん途中で出かけたが、ケーキとチキンを買って食べただけの一日だった。
ただいつもと違うのは、思いついたように奏からキスされることだ。チュッチュッ、と繰り返される可愛いキスに、由幸はふわふわと幸せな気分に浸った。
まるで子供のままごとみたいなクリスマスだったが、高校生だしこんなものなのかなと思った。自分はすでに大人だから、恋愛=セックスという考えが頭にあるけれど、やっぱりつきあってすぐにセックスなんて早すぎるのか、と。
その後も奏はイベントのたびに由幸を誘ってくる。大晦日は一緒に蕎麦を食べ、三が日のうちに初詣に行った。節分には豆まきもしたし、初めて恵方巻きを食べた。まるで幼稚園の季節の行事みたいだった。
しかし冬は恋人達が距離を縮めるのにもってこいの季節。二月に入ると由幸は嫌でもバレンタインデーを意識した。
製菓業界の策略だとわかっているがこの日に二人の進展がかかっている。バレンタインデーの数日前に百貨店で箱入りのチョコレートを買った。
一昔前はわざわざ二月十四日に男がチョコを買うなんてただの罰ゲームにしか思えなかったが、ここ数年はそうでもないらしい。男でも友達や恋人にチョコレートを贈ったり、自分用に購入したりするようで男性客の姿をちらほらと見かけることができた。
そしてバレンタインデー当日は仕事の後、奏と待ち合わせの約束をした。ちろちろと雪が降る中、奏も小さな赤い箱を手にしていた。
由幸のためにチョコレートケーキを用意してくれていたのだ。
凍えるような寒さの中、嬉しそうに笑う奏がとても可愛くて、ちょっとだけ泣けた。暖かい部屋で一緒にケーキとチョコレートを食べる。こんな幸せな一日があっていいのだろうかと感動したのだが。
バレンタインデーはそれで終了してしまった。
でもすぐにホワイトデーがやってくる。バレンタインデーよりはかなり地味だが、それでもやっぱり期待は大きく膨らんでいく。
ホワイトデーは以前由幸が立ちよった、奏の高校の隣駅のカフェに行った。前回食べたチーズケーキをぜひ奏にも食べさせたかったからだ。
ホワイトチョコが混ぜ込まれたチーズケーキが三月だけの限定商品だというので、それを二人で食べた。普通のよりも薄い焼き色の白いチーズケーキはまろやかな口当たりで、いくつでも食べられそうだった。
お腹いっぱいになるまで二人でケーキを何個も注文して、すごく楽しい一日だった。
しかしその日もそれだけでおしまい。
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