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第53話

「何言ってるんですか?そこがいいんじゃないすか。これ、たっちゃったら絶対下着からはみ出るでしょ? ひょっこり『こんにちは』しちゃうじゃん。でもさ、受けは絶対に冷静沈着でいられるし自信があるからこんなフィットしまくったの履けるんじゃないですかね。でもさあ、ねえ、ここ……。やっぱ攻められたらとうとう我慢できなくなって……、もう~~! ちょっと飛び出してるとこがめちゃくちゃ最高にエロいと思うんですよ!!」 「へー……」  由幸は無表情で生返事をした。いや、もう、何を奏に言っても意味をなさないと諦めた。 「ねえねえ、本当に売ってるんですよ」  奏はスマートフォンで男性下着専門店のホームページを検索した。 「うわあ……」  ズララララー、と腰から下の画像が並ぶ。信じられないような男性用下着の数々。世の中にはこんな変わったものを求める人が存在するのか。いったい何のために……。 「このモデルはマッチョすぎで俺的には萌えないけど、向井さんみたいな細身の人が身に着ければ、絶対に絶対にぜーったいにセクシーなんですって!」  その場では奏の熱弁を軽く流し聞いた。しかし布団の中で目を閉じるといつまで経ってもセクシーパンツがちらついて。  気がつけば、奏が寝息をたてる横で由幸は下着専門店を検索していた。  深夜のネット通販は本当に危険だ。絶対にそれが自分にとって本当に必要なものだと思ってカートに進んだくせに、午前中の明るい光の射し込む部屋で改めて注文履歴を確認するとひたすらどうかしていたとしか思えない。  それを履いて奏を誘惑してみようと決意したはずだった。しかしどう考えても、これを自分が履く勇気なんてない。なんであの時は履けると信じて疑わなかったのか。それが深夜のテンションだ。  現実にこんな下着を履いている男がいたら、自分なら確実に引く。漫画だから許されるのだ。  最近どうも欲求不満がいきすぎて、面画と現実のボーダーラインがあやふやになってきてはいないだろうか。 「うん。無理だ」  由幸はクローゼットの奥にそっと取り寄せた下着を隠した。返品すればよいのだがそんなものを送り返す勇気もないし、万が一に使う日が来るような来ないような──。  奏を好きになってから自分がこんなにも臆病だったのかと呆れてしまう。以前あっさり「しよう」と言えたのはお芝居だったからか、奏のことを意識してなかったせいだ。  人を好きになれば嫌われたくないと思うのは当たり前だ。でも今までは自分がリードしてきたはずなのに、奏に対してはそれが上手くできていない。 「男同士って難しいなあ」  誰に聞かせるわけでもなく呟いて、由幸は出勤の準備を始めた。

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