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第55話

「えっと……、『僕の超えっちな幼なじみ』という本なんですけど」  ついつい辺りを見回し小声になる。だからってコールセンターの人間に対して恥ずかしいなどとは思わない。だって、そのあからさまなタイトルの本を出版しているのはそちらなのだから。  毎月定期購読の雑誌を買いに来てくれるお客さんに、八十歳を越えているであろうがとても元気なおじいちゃんがいる。そのおじいちゃんの定期購読を注文する際にかけた出版社への電話もとても印象深かった。 「夜の大帝王という風俗誌なんですけど、関東エリア版にお店の割引クーポンがついているか確認したいんですけど」  確認したいのは割引クーポンが毎月つくかどうかということで、つくなら定期購読用に毎号の入荷を注文しなければならなかった。この時は「元気なおじいちゃんだね」なんて笑い話ですんだのだが、この女子高生はそれとはちょっと違う気がする。  後頭部にものすごい視線を感じながら、由幸はもう一度メモを確認した。 「教えていただきたいのは……、表紙に三人男の子がいますよね? それの、そのー……、どの子が受けになるのかって事が一点。もう一点が……三人で……プレイがあるかどうか、というお問い合わせなんですけど」  受話器の向こうで一瞬の間があいた。そりゃそうだよなー、と思う。普通こんな問い合わせは来ないだろう。そんな質問するくらいなら買って読んで確認すればいいと思う。  でも奏に地雷がどうこう教えられた由幸は、もしかして彼女が自分の地雷をよけるために問い合わせをしてきたのかと考える。親切丁寧にも本のネタバレになりかねない質問をダメもとで毎回かけてみるのだ。 『確認いたしますのでお待ちください』  電話の相手もさすがプロ。一瞬の動揺は垣間見られたものの、こちらからの問い合わせにはちゃんと答えてくれる。受話器からオルゴールの音が流れた。  お手数おかけして申し訳ありません。由幸は胸の内で謝った。 『お待たせいたしました。一つ目の質問に関してのみのお答えになるのですが、ええと……表紙の金髪の子が、その……受けになりますね』 「わかりました。ありがとうございます」  どういったデータベースを調べてくれたのかはわからないが、本当に感謝しかない。こんな質問、まともに相手してくれるだけでもありがたい。  由幸は教えられたままに女子高生へ伝えた。 「そうですか……。じゃあいいです……」  ぺこりと頭を下げ、彼女は立ち去っていく。これがいつものお決まりだった。 「ストーカーじゃないですか~?」  いつの間にか背後にいた上野がそっと由幸にだけ聞こえる声で囁いた。 「そんなんじゃ……」 「絶対違うって言い切れます?だっていつもいつもこっちが困るようなことばっかり聞いてくるし。イケメン店員を困らせて面白がってるんじゃないですかね? だってターゲットになってるの向井さんだけですよ~?」  そうなのだ。いつも由幸が一人になる時を狙ったかのように現れる。毎回微妙に困る質問をして、結局その本を注文したことなど一度もなかった。 「でもちゃんと買い物はしていってくれるんだよね」  少女漫画やファッション誌など、来店のたびに何か一冊買って行ってくれる。今のところ業務妨害というほどの被害は受けていないため、特に注意をしようというつもりはない。

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