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第71話
なんと奏は興奮しすぎて、頭に血が上ってしまったらしい。
「八千代くん……」
口の周りをきれいに拭かれている間、奏は大人しくされるがままになっていた。
「これじゃお風呂無理だわ」
ただでさえのぼせ上がっているのに、風呂なんかに入れるわけがない。諦めて由幸が立ち上がっても、なぜか奏はその場にうずくまったままだった。
「ねえ、部屋戻るけど……?」
手を差し伸べて誘うが、奏はふるふると首を横に振っている。
「向井さん」
「はい?」
「俺、これ……どうしたらいっすかね?」
これ?由幸は首を傾げ、奏を観察した。しかしこれといって異常はないように見える。鼻血はすでに止まったようだが、貧血でも起こしているのだろうか。
奏は由幸をじっと見上げていたが、やがて焦れたように己の股間を指さした。
「これ。まじ、おさまらないっすけど……」
ぐんとズボンのフロントが小さな小山を築いている。
「おおっと……」
なるほど、そういうことか。そりゃそうだよな、と由幸は納得した。
「じゃあさ俺、風呂入るから、八千代くんは自分で処理しちゃいなよ。ベッド使っちゃっていいから」
子供を立ち上がらせるように奏の脇に手を差し込む。よっこいしょ、とかけ声をかけながら立ち上がらせても、奏は不満げな顔を由幸に向けていた。
「それ……、ひとりでしろってことですか?」
「だって……、これ以上やると流血事件になっちゃいそうじゃん」
足下には奏が垂らした鼻血が赤い点々になっている。由幸は奏の背を押し脱衣所から出るように促したが、奏は頑として動こうとしない。
「八千代くん」
由幸が焦れて声を上げると、奏はもの言いたげな視線を投げかけてきた。
「向井さんが処理してよ」
「はっ?」
処理?処理ってまさか。
思いがけない要求に由幸は言葉を詰まらせた。その間、奏はぷうと頬を膨らませうつむいている。その姿は駄々っ子みたいで何だか可愛らしい。しかし。
「俺のこれ、向井さんが手でして欲しい。てか、口でも可。ううん……、どっちかって言うと、お口ごっくんコースでお願いしたいんですが……」
詰めたティッシュの隙間から、ピコピコと荒い鼻息が漏れ聞こえてくる。
鼻に丸めたティッシュを突っ込み、頬を赤く染め、しかし口から飛び出す言葉は……。
「八千代く~ん……」
由幸は腕を組んで奏を見下ろした。
「はい」
「そういうのはね~、鼻血垂らしながら言うことじゃないでしょうよ。貧血で救急車呼ばなきゃいけなくなると困るから、ね? ほら、さっさとベッドへ行きなさい!」
由幸は呆れつつ、奏をベッドまで引き摺って行った。ぽいッ、と箱ティッシュをベッドの上へ放り投げてやる。
「ほらほらほら。さっさと処理しちゃいな~」
しかし奏はまだ食い下がってきた。
「じゃあ、抜きっことかは……」
「無理! 八千代くん、し~つ~こ~い~」
由幸は、つん、と指で奏の股間を押した。
「俺のこと、オカズにしちゃってもいいから、ね?」
パチン、と奏へウインクをひとつ。たったそれだけで奏は耳まで真っ赤に染めていく。
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