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第77話
奏の服に手をかけた。上半身にTシャツ一枚しか身につけていない。
「脱がすよ?」
由幸は宣言してT シャツを捲り上げた。すっかり脱がしてしまうと、無駄な脂肪のない若い肌が露わになる。
するり、とその肌に手のひらをあてた。鎖骨からへその下まで、そっと撫で下ろした。
「あ、あっ! ゆき、ゆきちゃん……!」
奏が真っ赤な顔をして、由幸の好きな呼び方をした。
「好き。奏くんが俺のことを『ゆきちゃん』って呼ぶの、好きだよ。何だか特別な気分になる、ね」
こてんと奏の首筋に額をあて、由幸は、ほっ、と息を吐いた。奏が特別な愛称で呼んでくれると、何だかひどく心が満たされる。自分が、奏の『特別』なんだ、と言われている気分になる。
由幸は奏を見つめにっこりと微笑んだ。奏もはにかんで由幸を見る。
シャツを脱ぎ捨てる由幸を、奏はその動作を見逃すまいというようにじっと見つめてくる。
「……がっかり、してない?」
「え?」
「俺の体、女の子みたいに柔らかくもないし、真っ平らで……、奏くんがっかりしてない?」
奏があんまりにも体を見つめてくるので、ついつい不安になってそんな事を聞いた。
すると次の瞬間、由幸は奏によって押し倒されていた。ずっと受け身だった奏が、由幸の手首を掴みベッドに磔にしている。
奏は由幸の腰を跨ぐと、きつく由幸の鎖骨を吸った。
「あっ」
チリッとした痛みを感じる。痛みは甘い快感に変わっていく。
「ゆきちゃんの……からだ全部に、キスマークつけていいですか」
興奮を滲ませた声で問われ、思わず由幸は背筋を震わせた。ついこの間まで由幸の体に触れることすら戸惑っていた奏が、完全な雄になっている。
「いいよ。いっぱいつけていいから。奏がつけたいところ、キスマークでいっぱいにして……」
由幸の身体中すべて、奏のものだという印を刻んで欲しかった。
由幸の胸に、わき腹の柔い部分に、奏の唇が降ってくる。由幸はとろりとした視線を宙に彷徨わせた。
体をうつ伏せにされ、背骨にそって吸われていく。シーツを固く掴む由幸の指が、その掴む強さで白くなっていく。
「んっ、待って……」
弱々しく止める言葉を無視して、奏は由幸のウエストから下着の中へと手を差し込んだ。
「ゆきちゃん……、パンツの中……すごく熱い。すごく硬くて、すごく蒸れてる……」
喜びを滲ませた奏の声が、由幸の背中で熱い息と共に吐き出される。
「知ってる! 知ってるから、言わないで!」
奏の指が由幸の興奮を握り込み、くちくちと音を立てて扱き上げた。
「あっ、ああっ! 待って……! ほんとに待って!」
由幸は奏の手首を押さえ、くるりと体を仰向けた。
「だめ? ゆきちゃん、もっと触りたい……」
「だめじゃないけど、俺だって、触りたいよ……」
受け入れる側であっても、由幸だって男だ。ただされるがままになっているなんて、まっぴらごめんだった。体を起こし、奏を押し倒した。
形勢逆転。
由幸は、奏のタイトなデニムのボタンに手をかけた。ボタンを外し、前を開ける。
由幸の手のひらに、奏の興奮がしっかりと形になって伝わってくる。由幸は視線を手元に向けた。
「……ふふっ」
つい由幸は小さく笑ってしまった。
「八千代くん、パンツ、可愛いね……!」
「えっ?」
奏は上体を起こし、己の下半身に視線を移した。その眉根にみるみるうちに皺が寄る。
「やばっ……。忘れてた!」
パステルピンクの生地に、同じくパステルカラーの水色とグレーでハート柄がちりばめられている。なんとも可愛らしいボクサーパンツを奏は身につけていた。
「八千代くん、こんな可愛いパンツ、どこで買ったの?」
スーパー攻めには似つかわしくないキュートなパンツ。
その可愛さと相反して、フロント部分はしっかり奏の形を浮き出しており、先端辺りの部分は濡れて色が変わっていた。
「う、なんで俺、よりにもよって今日これ、履いてきたんだろ……」
奏は顔を両手で覆って呟いた。
「あはっ。ヤバいくらい可愛い! 八千代くんによく似合ってるよ!」
由幸は奏の上に乗った。奏の全てが可愛らしくて、体重をかけて由幸は奏を抱きしめた。
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