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第79話

「もうっ……、八千代くん……!」  こんな時ですら奏の語りは通常運転だ。せっかくのムードはすっかり霧散してしまう。  そういうところも可愛いと思えてしまうのは、やはり惚れた弱みだろう。由幸はそんな困ったちゃんな奏の上に、再び乗り上げた。 「そんなに興奮ばっかりしてちゃあ、進むものも進まないよ?」  BLばかり読んで耳年増な奏だが、実はとても初心で奥手だ。ここは経験値が上の由幸がリードしなければ、いつまでたっても繋がれる気がしない。  でもお互いに体を繋げたいという意思があるのだから。由幸はハート柄の下着に手をかけた。  奏は瞳を潤ませて、由幸をじっと見つめている。その表情は、奏の愛読書によく描かれている可愛い受けを思い出させた。  しかしいくら可愛い表情を見せていても、下着の中で奏の中心はしっかりと反応している。ガンガンに天を向くそれはとても男らしかった。  指先を添わせるととても熱くて、太い血管に脈々と血が流れているのがわかる。こんなものすごいものを自分の中に受け入れることが出来るのだろうか。  由幸は少し不安になった。それでも奏のそれがやっぱりすごく愛おしくて、そっと先端に唇を寄せた。ちろりと舌先で丸い部分を舐め上げる。 「ん、ぅあっ……」  奏が低いうめき声がして、そこはびくあっさりと熱を吐き出してしまった。 「えっ!?」  由幸が驚きの声を上げる間にも、ビュッと熱い飛沫が弾け出る。それが奏の下着や、それどころか由幸の顔にまで散った。 「ん、あ、はぁっ……!」  奏は気持ちよさそうな息を吐いた。由幸はその様子をぽかんと見ていた。頬から奏が出したものがとろりと垂れる。 「ん? あれ……あれっ?八千代くん、いっちゃった?」  あまりの早さに由幸の脳は、それを理解するのに数秒かかった。 「ん……あ……。あ、あ、アーーーーッ!」  奏本人ですらやっと自覚したらしく、驚きの叫びが響いた。 「ヤバっ! えっ! ウソっ!! 俺、俺……いっちゃった……」  奏は愕然と自分の股間を見つめた。あまりにも早い絶頂に、正直言うと由幸の方がびっくりした。奏はショックが大きいようで、ゆらりと幽霊のように振り向いた。 「ゆきちゃん!!」 「な、なに?」  突然の大声に由幸は肩を震わせた。奏は大きく目を見開き由幸の顔を凝視している。   「ゆきちゃん! 顔! 顔! すげえエロい!」 太腿まで下着をずり下ろされたままの何ともまぬけな恰好で、奏は大慌てでベッドから飛び降りていった。 「ヤバイ、ヤバイ……」  黒いリュックを漁る奏の後ろ姿。形の良い尻が丸出しだ。ヤバいのはお尻丸出しでうろついている奏の方だろと、由幸はぼんやりとその後ろ姿を見つめた。 「すいません! ゆきちゃん、こっち! 目線ください!」  アイドルを追いかけるカメラ小僧のように、奏はスマートフォン片手に由幸へと手を振っている。ぽかんと由幸があっけにとられている間に、『パシャッ』とシャッター音が連続した。 「か……、か~な~で~く~ん……!」 「わあっ。由幸さん、顔めっちゃ怖い……!」  急いでベッドから下り、由幸は奏へと詰め寄った。 「何、撮ってんの!?」 「えっ。何ってもちろん、ゆきちゃんの……、ぶ、ぶっかけ顔ですが……」  もにょもにょと、さすがの奏も語尾を小さくさせた。 「だめっ! 消して!」 「え~……」 「だめ! 絶対!!」  由幸の本気の怒りに、奏は叱られた飼い犬のようにしゅんとうなだれた。奏が完全に画像を消去したのを確認し、由幸は諭すように話しかけた。 「そういうの、ほんとダメだからね?」 「だって……、せっかくだったのに……」  奏の視線は真っ暗になったスマートフォンの画面にいつまでも向けられている。 「奏くん」 「はい」 「写真より実物の方が全然いいでしょ」  ぐいっと奏の目の前に、由幸は顔を突き出した。そしてにこっと笑ってみせると、奏の顔は真っ赤に染まっていく。由幸がティッシュで顔を拭う間も、奏の視線は由幸に釘付けされたままだった。 「しかし八千代くん、めちゃくちゃ早かったね」 「スミマセン……」 「謝らなくていいよ。それより気持ちよかった?」  ほんの数秒だったが奏のアレを舐めることに全く抵抗がなかった。それどころか、すごくすごく愛おしかった。

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